『花より男子』パラレルワールドです。
キャラクターブックの書き下ろしまんが『退屈な王子』の番外編です。




王子様とあたし

〜そして始まり〜




 



 


 

ヴィーセル国の王子様であるルイ王子は、毎日退屈で退屈で寝てばかりいました。

どんなに召使が面白い芸をしようと、隣国の乱暴者の王子様が遊びに誘いに来ても、ルイ王子は全く興味が沸きません。

そして、ある満月の夜、ルイ王子は運命の出会いをしてしまいました。

・・・一匹のカエルと。

ピョン美と名付けられたカエルは、すっかり王子のお気に入りになりました。
王子自らえさを与え、どこに行くにも一緒のルイ王子とピョン美。
退屈でいつも寝ているばかりだった王子様の生活は、楽しいものに変わりました。

「ピョン美、王子様といられて幸せだピョン」

「そう?よかったね。」

「・・・で、王子様に実は内緒にしてたことがあるんだピョン・・・」

「・・・何?」

いつも明るいピョン美が珍しくふさぎこんでいるので、ルイ王子は心配でじっとピョン美を見つめました。

「・・・実はあたし、人間の女だピョン・・・悪い魔女に魔法で姿を変えられてしまったピョン・・・。」

「・・・なんだ、そんなこと。」

「! 知ってたピョンか?」

「・・・だって、しゃべるカエルって他にいないし・・・何となく。」

驚きでしばらく呆然としていたピョン美でしたが、それなら話は早いと王子にお願いをしました。

「あたし、ずっと王子様と一緒にいたいピョン。・・・元に戻るためのアイテムを一緒に探してほしいピョン。」

「・・・いいけど」

大きな目に涙をいっぱいためて王子を見るピョン美に、今更カエルの姿の方がいいなんて言えるわけがありません。

「え、えーとね、一つは、土星のネックレスだピョン。そして、ホームランボールと、汚れたうさぎのぬいぐるみ。この3つがそろわないと
あたし、元に戻れないピョン。」

「・・・どこかで聞いたことのあるようなものばかりだね・・・。わかった、一緒に探しに行こう。」

こうして3つのアイテムを探し出す、ルイ王子とピョン美の旅が始まりました。

 

 

 

「まずは土星のネックレスだピョン。」

「うーん・・・それってまさか落ちてるわけじゃないよね。・・・・人間だった頃の記憶ってないの?」


どうやって探そうにも手がかりが全くないので、探しようにもありません。
隣国へ続く途中にある森の中を、馬に乗って手がかりを求めて探しまわるのに疲れたルイ王子が肩につかまっているピョン美に話し掛けました。

 

「・・・カエルにされた時に一緒に記憶も消されてしまったみたいだピョン・・・。
でも、3つのアイテムだけはなぜか頭の中にずっとあって・・・・多分、相当インパクトの強い思い出だと思うピョン・・・」

「似たものだったら作らせることができると思うんだけど・・・」

 

王子がファーッと伸びをしながら眠そうな顔をします。

「それじゃ、意味がないピョン。」

「・・・そっか・・・ごめん。・・・ちょっと疲れちゃった・・・寝ていい?」

「え! お、王子。まだ一つ目も見つかってもいないのに、寝てる場合じゃないピョン!!」

「大丈夫だって・・・・おやすみ・・・」

「ちょ、ちょっと、王子〜〜!?」

 

慌てるピョン美を余所に、王子は木にもたれてすやすやと眠りに落ちていきました。
そんな一人と一匹に忍び寄る一つの大きな影に、王子もピョン美も気付いていませんでした。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

ルイ王子が目が覚めると、大きなベットの上でした。

「あれ・・・?どうしてここに・・・?」

「王子なのに、自覚がねぇみたいだな。あんなところで無防備に寝やがって。刺客にでも狙われたらどうすんだ。」

 

すぐそばで、聞きなれた声が聞こえました。顔を上げると、幼馴染の隣国のツカサ王子が呆れた顔でこちらを見ています。

「!そういえば・・・ピョン美は?」

はっと気付いたルイ王子が慌ててベットの周りを探します。

「・・・ピョン美?ああ、あのカエルなら・・・」

 

ツカサ王子が指を指して部屋のテーブルの方を差しました。
見ると、ピョン美が目をうるうるさせてルイ王子を見ています。


「・・・そいつから話は聞いたぜ。しっかし、ルイ。おまえにカエルを飼う趣味があったとはなぁ・・・。
道理で生身の女に興味がなかったはずだぜ。」

 

ニヤニヤしながら意地悪く笑うツカサ王子の言葉を無視して、ルイ王子はピョン美のそばに行くと愛おしそうにピョン美を抱き上げました。
ピョン美が耳元で囁きました。

『王子、一つ目のアイテム、見つけたピョン!!』

『え、どこ?』

思わぬ言葉にまだぼーっとしていたルイ王子は、ピョン美の指差す方向を見ると・・・そこにはツカサ王子が怪訝な顔で立っていました。

 

『え?ツカサが?』

『・・・どうしてかはわからないけど、あの人の胸元にあるのが見えたピョン。絶対、あれにまちがいないピョン!!』

 

自信を持ってきっぱり言うピョン美に、ルイ王子は『わかった』と言うと、ツカサ王子の方へ近づいていきました。

「ツカサ。ちょっとそれ見せてくれない?」

胸元のペンダントを差して、ルイ王子が言いました。

「え?これか?・・・そういえばそのカエルもさっきからやけにこっちを見ていたよな・・・。ま、いいけど・・・。」

 

「家宝なんだから大事にしろよ」と、ツカサ王子はペンダントをはずすとルイ王子に渡しました。

「はい。ピョン美。」

 

ルイ王子がピョン美にペンダントを渡すと、驚くべきことが起きました。
ピョン美が土星の部分に触れた瞬間、周りの光を集めたようにピョン美が光に包まれ始めたのです。
ルイ王子とツカサ王子は呆然とする間もなく、ピョン美の姿は光で遮られ見えなくなりました。


「ピョン美!?」

「な、なんだこれ?」

 

光は周りの物を少しずつ飲み込むようにどんどん大きく膨らんでいきます。
そのまぶしさに耐えられなくなって目を閉じた瞬間、バチッと大きな音を立てて光が消えました。



二人の王子が目を開けると、ピョン美がいたはずのところには1人の女の子が立っていました。

髪の毛は漆黒の闇のように黒く、肩のところまでの長さで、ピョン美と同じような黒目がちの意思の強そうな目を持ったかわいい女の子でした。
彼女は自分の顔を両手でぺたぺたと触ったあと、信じられない様子で自分を見るルイ王子の方へ駆け出し、抱きつきました。

「ルイ王子、ありがとうピョン!」

「・・・ピョン美、だよね?」

姿が変わっても口調がカエルの時と戻らないピョン美に、ルイ王子は笑いを噛み殺して我慢していました。
おずおずと彼女の背中に腕を回すと、ピョン美がルイ王子の腕の中で嬉しそうにうなずきます。
そばで見ていたツカサ王子はハッと我にかえると、抱き合う二人を睨みつけて言いました。


「・・・おいっおまえらっ!そんなことより俺のペンダントはっ?そこのカエル女っ!!」

 

ツカサ王子の乱暴な口調にピョン美は少し顔をしかめましたが、ペンダントを彼に返しました。

「・・・とにかく、ありがとピョン。」

にこっと笑うピョン美の笑顔が予想以上だったのか、ツカサ王子は突然頬を赤く染めると黙りこくってしまいました。

 

(・・・これは・・・これ以上いたら危険かも。)

ルイ王子は意外なツカサ王子の反応に早く手を打つべく、「じゃ・・・」と口を開きました。

「そろそろ俺達行くね。ツカサ、ありがと。この借りは近いうちに返すよ。」

ピョン美の手を引っ張り部屋を出ようとした時、ツカサ王子が「待てよ」と声をかけてきました。

 

(・・・ほら来た。)

予想通りの展開に、ルイ王子が身構えるとツカサ王子が勿体つけたようにコホンと咳払いしました。

「・・・俺もこいつが元に戻るの、手伝ってやるよ。まあ、乗りかかった船だしな。」

「え、いいよ。ツカサ。今、いろいろ忙しいはずだろ?国王になるための修行で。」

 

ルイ王子は心の中で「とんでもない」という気持ちで、首を振って断ります。

「森の中で寝てたおまえを、わざわざここまで運んできてやった俺様の申し出を断るのか?」

額に青筋を立て怒り口調で言うツカサ王子ですが、ルイ王子も負けてはいません。

「・・・それは勝手にそっちがしたことだろ?」

「・・・でもそのお陰でこの女が探していたものが見つかったじゃねーか。」

 

そう言って、ピョン美の方を見たツカサ王子はニヤリと笑いました。

「それに、残りのアイテムも多分俺知ってるぜ?」

「・・・それ、本当だピョンか?」

「ああ、ボールはうちの国と取引のある隣の国の商人が持ってた気がする。なんでも 『ホームランボール』と言われる、
めったにないものだそうけど・・・。自慢気にこの間見せびらかしに来てたな。
そういえば、ちょうど明日そいつが取引に来る日だけど・・・・おまえ、一緒に来るか?」

 

ツカサ王子は『やられた』という表情のルイ王子をちらりと見ると、ピョン美の返事を待ちました。
困ったピョン美は大きな瞳を2、3度まばたきさせると、ルイ王子に懇願するような視線を送りました。

(仕方がない・・・・か。)


ルイ王子はため息を一つ吐くと、力なく笑って答えました。

「・・・わかったよ・・・。」

「じゃ、決まりだな。明日の12時に来るから、今日は泊まってけよ。
・・・あ、ちなみにさすがに男女が同じ部屋じゃまずいからな。カエル女には部屋を用意させるよ。」

「カエル女じゃないピョン!『ピョン美』だピョン!ご主人様が付けてくれた名前だピョン!」

ピョン美が怒ってそう言うと、ツカサ王子は少し呆れてルイ王子を見た後、意地悪く答えました。

「・・・ルイ、おまえセンスの欠片もない奴だな。
普通の女は、『ピョン』なんて言わねーよ。じゃあな、カエル女のピョン美ちゃん。」

 

ヒラヒラと手を振って部屋を出ていったツカサ王子に、ピョン美は「あいつ王子だか何だか知らないけど、むかつくピョン!!」とテーブルに八つ当たりすると、
さっきから元気のないルイ王子に話し掛けました。

「王子、どうしたピョンか?」

「・・・いや、何でもないよ。」

 

(・・・あのツカサがこういう形にせよ女を助けてやるなんて・・・ピョン美が気に入ったんだな・・・。)

ツカサ王子の行動は幼馴染であるルイ王子には、一目瞭然でした。







*****










そして次の日、約束どおりの時間に商人は現れました。
金髪に空色の瞳、見たこともない異国の服装に身を包んだ商人は、ツカサ王子を見ると嬉しそうに駆け寄ってきました。


「OH!ツカサ王子、久しぶりデスネ〜。国王は元気デスか?・・・そちらの人達は?」

「ああ、僕の友人のルイ王子と・・・彼専属の侍女です。」

「OH!そうでしたか〜!ルイ王子、お会いできて光栄デス。ええ、存じ上げておりますよ。
前前からそちらの国とも交流を深めたいと思ってたのデス〜。そうデスか〜!ツカサ王子のご友人でしたか〜。
お時間よろしければ、このあと少しお話デモ?」

早口でまくし立てるこの不思議な商人に、はぁ・・・という顔をしたルイ王子とピョン美を尻目に、ツカサ王子は話を続けました。

「ところで、この間持っていらしたあの『ボール』、今日は・・・」

商人はにこっと笑うと、胸元のポケットからオレンジほどの大きさのあるボールを取り出しました。

「もちろん、持ってマスよ〜!これは私のグッドラックチャームですから。これを拾ってから商売繁盛デース!!
この間もこれのお陰か、危ないところを命拾いしました〜!」


ピョン美はボールを食い入るようにして見つめていました。
ルイ王子はピョン美の様子に間違いないと確信すると、ツカサ王子に向かって頷きました。

「・・・そのボール、ちょっと見せて頂いてよろしいですか?・・・実は僕、珍しいボールを集めていまして。
あ、もちろんあなたのボールが欲しいなんて言いませんよ?一度だけ、手に取らせていただけたら・・・と。」

「・・・ツカサ王子のお願いならしょうがありませんネ〜?わかりましたヨ。」


はい、と手渡しされたボールをツカサ王子が受け取ると、「これが奇跡のボールですか〜」と商人に見えないように、
体を反転させてピョン美に渡しました。
 

(もし本物なら、何か起こるはずだ・・・。)

ピョン美がボールに手に触れた瞬間、ペンダントの時と同じ光がピョン美の体を包み始めました。

「ナニが起こったのデスか〜!!?」

驚いて眩しさに目を閉じた商人と、光に包まれていくピョン実をただ見守ることしか出来ない二人の王子は、
再び光に飲み込まれていく中で、ピョン美ではない、どこかで見たことのある女性の姿を見たような気がしました。

 

「これは・・・あいつの記憶の断片か?」

光の中で叫ぶツカサ王子に、その女性の正体がわかってしまったルイ王子は、何も答えることが出来ず呆然としていました。
やがて、またバチッと大きな音を立てると、ピョン美を包んでいた光は弾けて消えて・・・

ちょうど光の中心にいたはずのピョン美はボールを持ったまま、青白い表情で倒れていました。



「・・・ピョン美!!」









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