***** 「そうデスか・・・・・・そんなことが・・・。」 「・・・すみません。」 申し訳なさそうに謝るツカサ王子に、商人は首を振ると口を開きました。 「もらった?」 二人の王子が怪訝な表情をして聞き返しました。 「ええ、商売の調子があまりよくない時に、占い師と名乗る女性から 「・・・帰りにヴィーセル国へ寄ってください。僕からの手紙をあなたに渡します。 ルイ王子の言葉に商人は顔を上げて目を丸くすると、涙を流して喜びました。 目が覚めたピョン美が体を起こすと、自分がいつもと違うことに気付きました。 他に忘れていることがないか考えていたそのとき、急に部屋のドアが開けられました。 「お、起きたのか。よかったな。」 ツカサ王子は部屋に入ると、ピョン美のそばに近づいてきました。 「あ、・・・うん。ありがと。」 「・・・なんだ?いつもなら『ありがとピョン』って言うくせに。やっぱり直したのか?」 あれは、かなり恥ずかしかったもんな〜と言うツカサ王子に、ピョン美は顔を赤くすると怒ったように言いました。 「直したわけじゃなくて、なくなったの!」 同時にピョン美のお腹から『ぐぅ〜』と音が聞こえて一瞬の沈黙のあと、 「・・・くっくっ・・・おまえ、やっぱり面白い奴だなぁ〜。」 「・・・・・・。」 「最高の誉め言葉だと思うけど?・・・何か食べ物持ってこさせてやるよ。」 「また助けてもらっちゃったね・・・。ありがと。」 「・・・おう。・・・言っただろ?乗りかかった船だって。まあ、ルイとも幼馴染だし。・・・それに・・・」 「それに?」 息を吸い込むような一瞬のあと、ツカサ王子はピョン美のベットに腰を下ろすと、 「・・・俺はおまえが気に入ったしな。」 ツカサ王子は頬を赤く染めたままそう言うと、足早に部屋を出て行きました。 さっき起こったことが信じられなくて、ピョン美はベッドに倒れこむと目を閉じて頭の中でリバースしていました。 (・・・えーっと、あいつがあたしに・・・) 優しい声にピョン美は目を開けると、そこにはルイ王子がいました。 「あ、うん。」 「・・・ツカサが言ってた通りだ。言葉、直ったんだね。じゃあ記憶は・・・?」 ピョン美は首を振ると口を開きました。 「家族の顔は思い出せたんだけどね、名前とか・・・もちろん自分の名前もまだ思い出せないんだ。」 「・・・そう。他には?」 「うーん・・・。あるような、ないような・・・。」 (・・・多分、あの商人が出会った占い師も同じ女だろう。でも、ピョン美はどうして呪いをかけられてしまったのだろう?) 「王子?ねぇ、王子ってば・・・。」 「ああ・・・ごめん。」 「何回読んでも無視するから、また前みたいに目を開けたまま寝ちゃったのかと思った・・・」 思い出したのか、面白そうに笑うピョン美の髪が以前より長くなったことにルイ王子は気付きました。 「・・・髪、伸びたんだね。」 「・・・あ、うん。そういえば、これは思い出したことなんだけれど・・・本当はあたし、この位の髪の長さにずっと憧れてたの。」 「へぇ。じゃ、よかったのかな?こんなに伸びて。記憶をなくす前はもうちょっと短かったんだね。」 長くなった髪を指に巻きつけながら、ピョン美が言いました。 「多分ね。・・・何で髪をのばしてたのかな…?あたし、お願いしてたような気がする…そう、何かのぬいぐるみに…。」 「へー・・・って、それひょっとして『うさぎのぬいぐるみ』じゃないかな?」 「・・・あ!!」 「ひょっとして・・・3つ目のアイテムはピョン美自身が持っていたもの?」 「・・・そ、そうなのかな?あんまり自信はないけど・・・。じゃ、今はそれ、あたしの住んでいた家にあるのかな…?」 ピョン美は一生懸命に記憶を辿ろうとしました。ルイ王子は考え込むと、やがて口を開きました。 「いや、魔法をかけられた時に取られた可能性があるかな……とりあえず、今日はもう休みなよ。」 ルイ王子の言葉にピョン美がブンブンと首を振りました。 「でも、王子。あともう少しでわかりそうな気がするの。今探しに行かないと…」 まだ決して顔色が良いとは言えないピョン美が王子に訴えます。 「…駄目だ。今日は休んで、明日一緒に行こう。起こしに来るからそれまでゆっくり寝てなよ。」 優しい瞳でそう言うルイ王子に、ピョン美が渋々頷きました。 「……うん。…ところでね、ルイ王子…あたし……」 「何?」 穏やかな顔をしたルイ王子が聞きました。ピョン美は顔を見る見る真っ赤にさせて、恥ずかしそうに答えました。 「…実は…お腹が空いて寝られないんだけれど…。」
**** 翌日、元気になったピョン美と二人の王子様は、残りのアイテムを探しに森へ出かけました。 「ピョン美、そんなに早く歩いて大丈夫なの?」 ルイ王子が尋ねました。 「大丈夫!!…それになくした記憶、取り戻したいし…あたし、早く自分の名前、思い出したいんだ。」 そう言って早足で歩くピョン美に、ツカサ王子が突然ポンと肩を叩きました。 「きゃぁっ!」 「そんなに驚かなくても・・・・・・見ろよあれ。ほら…。」 ルイ王子がそんな二人の様子を訝しげに見た後、ツカサ王子の指す方向を見ると… 二人の王子は黙って顔を見合わせると、示し合うように頷きました。 「明らかに…『罠』って感じだよね。」 「ちょっと?二人とも何してるの?行ってみようよ。」 気が付けば、ピョン美は建物のすぐそばまで行っていました。驚いた二人が追いかけようとしましたが、時はすでに遅し。 「こんにちはー。誰かいませんか?」 ピョン美の呼びかけに、誰も答えません。ルイ王子とツカサ王子が奥まで入ろうとするピョン美の手を引っ張って連れ出そうとした瞬間、 「…おやおや誰かと思ったら、ツカサぼっちゃんですかい?ルイ王子も。」 「タマ!!どうしてここに…」 「ツカサ、知り合いなの?」 「ああ…俺を城でずっと育ててくれた人だ…」
呆然として老婆を見ているツカサ王子に、タマと呼ばれた老婆はピョン美を見るとニヤリと笑いました。 「まさかぼっちゃんと知り合いとはね…。その子の記憶がない理由をあたしゃ知ってるよ。…不運な子だねぇ。でも教えてやらないよ。 「おい!タマ!!どうしてそのこと…」 「あんたは黙ってて。…おばあさん、あたし自分の記憶を取り戻したいんです。教えてください。 「…女に二言はないね。辛い思いをするかもしれないよ。それでもかい?」 お菓子の家に、老婆の不自然な現れ方。ルイ王子の中で危険を知らせるサインが点滅していました。 「…決意は固いようだね。わかった。じゃ、見せてあげよう。」 タマはポケットから小さな水晶を取り出すと、壁に向かってぶつけました。 ようやく光がおさまり目を開けると、ピョン美と王子達は見たこともない景色の中にいました。 「…あたしだ!!」 驚いたピョン美が振り向くと、またすぐに足元がゆがんで違うところにいました。 「なんだこりゃ…」 3人はまた知らない建物の前にいました。 「…学校、みたいだね。俺達の世界にもあるように…。」 ルイ王子がぼそりと言いました。 その時、また空間が急にゆがんで3人は港にいました。 自分にそっくりな男の子が倒れている姿を見たツカサ王子は、呆然としてつぶやくと、突然背後に現れたタマが言いました。 「これは、おまえ達の来世だよ。」 「来世!?」 タマが頷いて言いました。 「ツカサ王子をあたしが育てたように、来世でもあたしと王子は出会うんだ。そして…」 タマはピョン美とルイ王子を指差しました。 「おまえ達も。」 ピョン美とルイ王子は顔を見合わせました。 「…さて見てもらった通り、おまえ達とそっくりなあの若者達だけれど、このあと、ツカサ王子にそっくりな男が助かる見込みは非常に少ない。」 ツカサ王子がショックを受けた顔をしました。タマは話を続けました。 「…ただ一つだけ、方法がある。」 「…教えて下さい。」
ピョン美が何かを決意したように、真っ直ぐタマを見ました。 「おまえの記憶を戻さず、このままツカサ王子と結婚すればあの男は助かる。 ピョン美のことが自分の母親のせいだったことと、未来の自分がピョン美を苦しめていたことを理解したツカサ王子は 「…ルイ王子。今まで本当にありがとう。あたし、ツカサ王子のそばにいる。」 ルイ王子は一瞬目を大きくさせると、目を閉じて何かを考え、そして静かに言いました。 「・・・ピョン美…俺は……おまえが決めたことなら何も言わない。」 その言葉を聞いたツカサ王子が怒って吐き捨てるように言いました。 「いくら来世だって、俺は同情してもらわなくても……おまえ、ルイが好きなんだろ?ルイだって…」 「…好きだよ。でも、それが恋なのかはまだあたし、わからない。 ピョン美はきっぱりと言うとタマに向き合いました。 「おばあさん、お願いします。」 「…本当にいいのかい?…このままじゃ、おまえは辛いだろう。 静かに頷いたピョン美が二人の王子に笑いかけた瞬間、何か言いかけた二人の王子の前でタマは杖を取り出すと、 「あの…ここ、どこですか?あなたは?どうしてあたしここにいるんでしょう?」 「…ここは俺の家だ。俺の名前はツカサ。…おまえは森の中で倒れてたんだよ。…おまえの名前は?」 ツカサ王子は身分を隠して言いました。 「…そうなんですか?すみません。ご迷惑をかけて。あたしの名前は…」 一生懸命思い出そうとしても、どうしても自分の名前が思い出せません。 「…ピョン美。」 「え?」 聞き直した少女が尋ねると、ツカサ王子が笑って言いました。 「…おまえの名前は『ツクシ』だ。おまえにぴったりだろ?」 それだけ言うと、ツカサ王子は部屋から出て行きました。部屋の外にはルイ王子が壁にもたれて待っていました。 「ピョン美は…?」 「ああ、体は大丈夫。…やっぱり記憶をなくしてた。」 「そっか…」 寂しそうに答えるルイ王子に、ツカサ王子が言いました。 「ルイ。…もし、おまえが…」 「ストップ!!」 ツカサ王子の言葉を途中で遮ったルイ王子は、真っ直ぐツカサ王子を見据えながら口を開きました。 「…俺だって来世でおまえが死ぬ姿なんて見たくないよ。俺はピョン美とおまえが幸せならそれでいい。 「…わかった。絶対に幸せにするよ。」 ツカサ王子は少し笑って言いました。 半年後、猛烈なアタックをし続けたツカサ王子についにツクシは根負けし、二人は結婚することになりました。 |
やーっと…書き上げました。少々、内容がかみ合ってないと思いますがご容赦を。話に出てくる商人は、『キアーイ』のおじさんです(笑)ちなみに魔女は楓さんで。 |