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≪出発の日まであと2日≫
【ラストデート】
今日は土曜日なので授業は昼で終わりだ。あたしはすぐに家に帰る気になれず、久しぶりに非常階段に来ていた。
いつもの風景。いつもと同じ日差しの強さ。
道明寺がNYに行ったらもうここには来ないなんて花沢類に宣言したけど、
本当にそれができるかなんて昨日の大泣きのあたしを思い出したら自信がなくなってきた。
はぁーっと大きなため息が出る。
・・・・・・あたし、この前ここに来た時と何にも変わってない。
道明寺の記憶が戻って、ほんとなら今頃もっと明るい気持ちでいるはずだったのに。
・・・・・・あたしっていっつもなんか悩んでるわ・・・・・・
「お金がない」とバイト探しに悩んで。学校に来ては道明寺のことで悩んでる。
あたしはずっとこの繰り返しだ・・・・・・・・・・・・なんっか腹立ってきた・・・
・・・・・・昔、ここで大声を出してた頃が懐かしい。今、あたしが大声で叫ぶとしたら・・・何だろう
・・・うーん・・・・・・・・
あたしは息を思い切り吸った。
「・・・あたしの平凡な生活返せ―ッ!!どーーみ・・・・」
非常階段の扉がいきなり開く。
「・・・・・・・おまえ、何叫んでんだよ・・・恥ずかしい奴・・・」
顔を少し赤くしてあたしを見る道明寺に、あたしはびっくりして固まってしまった。
「〜〜〜〜〜突然入ってこないでよっ!びっくりするじゃないっ」
「・・・おまえ、『あたしの平凡な生活返せ』のあと、何言うつもりだった?」
「・・・え?あ、あっ、それはねっ、『ドーはドーナツのドー』って言うはずだったのよっ」
あたしはあせって一生懸命言い訳を考えた。本当は『道明寺のバカヤローッ』って言うつもりだったから・・・。
「ふーん・・・まあいいけど・・・」
道明寺は納得したようだ。よかった、簡単な奴で・・・・・・
「そ、それより何でここに来たの?」
「・・・ああ・・・久しぶりにデートしねえかと思って誘いに来た」
相変わらず・・・・・・こいつはストレートだ。でも嬉しい。
「・・・うん、じゃ、まず一緒にお昼でも食べに行こうか」
一年ぶりのデートだ。あたしたちは一緒に街に出かけた。
道明寺がランチに選んだレストランは、やっぱり高そうなところだった。
「ちょっと・・・あたし払えないからこんな高そうなとこ・・・・・」
「・・・いーんだよ、おまえ相変わらずだな。今まで迷惑掛けたお詫びだ。金のことは今日は言うなよ」
「あんたにしては、珍しいね。」
そんなあたしの言葉に道明寺はフンと鼻を鳴らすと、「俺は変わっちゃいねーよ」と店のドアを開けた。
土曜日のお昼だけあって、レストランは少し混んでいた。
運良く席についてメニューを選ぶ。しばらくするとボーイがオーダーしたものを運んできた。
「・・・こうやって向かい合ってご飯食べるの、久しぶりだね」
「ああ・・・そうだな」
テーブルに肩肘をついて、道明寺はあたしをじーっと見つめる。
「ちょっと、そんなに見ないでよ。恥ずかしいじゃない。・・・これ、おいしーっ。ほら、あんたもっ」
「・・・おまえ、相変わらずうまそうに食うな」
あたしを見て微笑むあいつ。あたしはその笑顔にドキッとする。
「・・・だってうまいんだもん。目の前のおいしいものは、食べれる時においしく食べなくっちゃ。バチあたるわよ」
「・・・・・・その言葉聞いたことある気が・・・」
あたしはその言葉に少し驚いた。だって確かこいつが記憶を無くしてた時に言った言葉だから。
「うん、話したことあるわよ。記憶を無くしてたあんたに。あたしのこと全部忘れてたわけじゃなかったよ。
あたしが作ったお弁当食べた時とか、赤札貼った時とか、ところどころであたしのこと覚えててくれたよ」
「そっか・・・よかった。おまえの口からそれを聞けて。それにしてもやっぱ俺ってさすがだな。心のどこかで牧野のこと忘れてねーんだ」
ほっとしたように言う道明寺。
「・・・当たり前じゃない。あんたに簡単に忘れられるような女じゃないわよ、あたしは。なんてったって『無印良女』なんだから」
「ぶっ、それ久しぶりに聞いた。さすが牧野つくしだぜ」
たわいの無い会話をして笑いあう。そんな時間がとても愛しく思う。
このまま時間が止まってしまえばいいのに・・・・・・・・
あたしは胸が痛んだ。
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しばらく街を歩いたあと、道明寺があたしの家に行きたいと言い出した。
こいつがあたしの家に来るのは、誘拐騒動以来だわ・・・・・・ 一年前、最後の鍋で別れを決めてたあたしたち。
あのときのあたしが今、またこいつの隣で歩いてるなんて信じられない。
扉を開けると進がいた。
「おかえり、ねーちゃん。えっ!ど、道明寺さん?」
進は突然の来訪者にびっくりしている。
「入院してたって聞いててびっくりしたんですよお。よかったですねえ、元気になって」
「おう」
「もー、ねーちゃんてば、道明寺さんが入院したあたりからずっとぴりぴりしてて・・・・・・
おれ、八つ当たりされて大変だっ・・・・・うガッ」
あたしは進が最後まで言い終わらないうちに鉄拳を浴びせてやった。
「もぅ!進!黙んないと、お弁当作ってやんないよっ!」
「ひでーっ、それはないぜ」
あたしたちの姉弟げんかをあいつは楽しそうに見ている。
「そうそう、お茶入れるねっ」
あたしはいそいそと台所に立った。
3人でいろんなことを話した。
進の話すあたしの恥ずかしい話を道明寺が面白そうに聞く。あたしは二人をぽかっと殴る。
・・・でもみんな笑ってる楽しい時間・・・・・・。
あたしは話しているうちにだんだんとまぶたが重くなってきた。
疲れてたのかな・・・・・・・すご・・・く眠い・・・
でも、あいつに話さないといけないことがあるのに・・・
・・・・・・・・そのままあたしは深い眠りに落ちていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
≪出発の日まであと1日≫
【プレゼント】
次の日、目を覚ましたあたしは心底びっくりした。まさか自分が朝まで寝ているなんて思いもしなかったからだ。
約束の日は明日に迫ってるって言うのに・・・・・・・・あたしって・・・最低・・・・・・・・
ほんと、恋愛向いてないかも・・・・・・・・・
進があたしを布団に運んでくれたらしい。隣ですやすや寝てる・・・・・・
「うん・・・・・・ど・・・みょうじさん・・・・・・」
進が寝言を言っている。何の夢みてんのかしら。
あたしはふあぁ〜と大きな欠伸をした時、突然、玄関のチャイムが鳴った。
扉を開けると何故か滋さんと桜子と優紀がいた。3人とも息を切らしてる。
「な・・・なに、みんな、どうしたの?朝っぱらから」
「つくしっ、司が大変なのっ!今すぐあたしたちと一緒に来てっ!」
あたしは滋さんの言葉に思わず息を呑む。そんな・・・・・この間やっと記憶を取り戻したばかりなのに・・・
「・・・わ、わかった・・・ちょっと待ってて。財布取ってくる・・・」
「財布なんていいからっ、このまま来てっ!連れてくからっ!」
そ、そうよね・・・とりあえず、行かなきゃ・・・・・・・・・
あたしは3人に急かされて慌てて家を出る用意をした。進には後で連絡しよう。
外には滋さんちのベンツが一台。
あたしの頭の中を、昨日進と楽しそうに話している時の道明寺の笑顔が過ぎる。
何があったのかわからないけれど、とにかく無事ならそれでいい。
急いで車に乗り込むと、道明寺が待っているところへ向かった。
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車の中は静かだ。みんな一言も話さない。もうかなり長い時間走っているような気がするけど・・・・・
あたしは沈黙に耐えられなくなって聞いた。
「ね・・・滋さん、一体何があったの・・・・・・?
「・・・とにかく、着いたら説明するから・・・」
表情を固くしたまま、それしか言ってくれない。
「ねえ、桜子も知ってるんでしょ?」
「・・・先輩、私の口からは言えないんです」
きっぱり言い放つ桜子は取り付く島もない。
「ね、優紀・・・・・・」
「つくし・・・何も聞かないで・・・・・・」
優紀は申し訳なさそうに首を横に振るだけだ。
3人ともずっとこんな調子・・・こんなことされたらますます不安になるじゃない・・・・・!
一体道明寺に何があったの・・・・・?
「ちょっと、みんな教えてくれないとあたし納得できな・・・・・・・・・」
「本当、ごめんっ。つくし。ちょっとだけ眠ってて」
急に滋さんの腕が伸びてきたかと思うと、あたしは口をふさがれた。
・・・・・・なにこれ・・・・・・強烈な薬品の匂い・・・・・・・・
なんで・・・・・・?・・・・・・今日までしか道明寺と一緒にいれないのに・・・・・・
・・・・・・薄れ行く意識の中で、またあたしは道明寺の笑顔を思い出す。
あたしの意識はそこで途切れた----------------------------------
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「・・・・・カヤロウ!!」
あたしは誰かの怒鳴り声で目を覚ました。聞いたことのある懐かしい声・・・・・・
「…たくっおまえはッ!どうしてやることがそんなに荒っぽいんだよッ!!無人島の時といい・・・・・・」
「…そんなに怒らないでよ。だってしょうがないじゃん、あのままだったらつくし、絶対納得してくれなかったから……
元はと言えば、司がこんな計画を急に立てようって言い出したからじゃない!」
「なんだとっ!しょうがねーだろっ、普通に説明してこいつが来るなんて思わなかったんだから」
ん・・・・・・滋さんと…道明寺?何であいつ・・・・・・なんとも無いの?
「あ・・・・・・よかったあ。つくし。目、覚めたんだね」
心配そうにあたしを覗き込んで優紀が見える。
・・・・・・そう、あたし車に乗って、んで滋さんに変な薬をかがされて・・・・・・
「…ここ、どこ?」
「…軽井沢よ。本当にごめんねつくし」
申し訳なさそうに優紀が言う。
「軽井沢ぁ!?」
全くあたしの周りの人達は…あたしの意見無視しちゃって・・・呆れて何も言えなかった。
そして、あたしは身体を起こそうとして自分の着ている服に気が付いた。
…げえっ・・・・・・・・!!
なんであたし、ウエディングドレス着てるの??
よく見ると、優紀もかわいいピンクのドレスを着てる…向こうに見える桜子も、滋さんもみんなドレスを着てて・・・・・・・・・・・・
状況がよく飲み込めない…
目を白黒させていると、椿お姉さんが走ってきた。
な・・・・・・お姉さん、なんでここに・・・・・・?
お姉さんはそのままの勢いであたしをまた強く抱き締めた。
「つくしちゃんっ、私とっても嬉しいわっ!!あなたがあたしの義妹になってくれるなんて・・…」
「は?」
義妹??あたしはますます訳がわからなくなる。
「あっあたしよくわからないんですけどっ!気が付いたらここにいたし、こんなドレスなんて着せられてっ・・・・・・・・」
「あ・・・・あ、そうね。司ったら本当に何にも言ってないのね」
お姉さんはあたしを見つめた。
「実はね…今回司がつくしちゃんの記憶を無くしてしまって、すごくつくしちゃんを傷つけたこと気にしてて・・・・・・
つくしちゃんを喜ばせたいと思ってあの子が考えたことなの…みんなの前で思い出に残る幸せをあげたいって」
「…でもあたしはあいつと結婚なんてまだ…」
「・・・・・・つくしちゃん、司はあなたのこと本当に好きよ。ずっと一緒にいたい女の子だって言ってたわ…
NY行きのこと、まだ司と話し合ってないにしても・・・・・つくしちゃんはあの子の気持ち知ってるんでしょ?」
お姉さんの言葉にあたしはうなずく。・・・・・・あたしはまだ迷ってる。
あいつの為にどうしたらいいのか。あたしはどうしたいのか…
「どっちにしてもね、この先二人がずっと一緒にいたいと思ったら家のことは必ずぶつかる問題なの。
お母様はあなた達の仲をきっとまた邪魔すると思う…。
でもね、あなた達は今までどんなことがあってもお互いの手を離さなかった……だから今あなた達はここにいると思うの」
「…お姉さん・・・・・・」
「今日は本当の結婚式ではないわ…だけどね…この先どうなってもこの恋を選んだことを後悔しないように、
今日のこの日を二人のスタートラインにしてみたらどうかしら」
道明寺との思い出が頭の中を駆け巡る・・・・・・
・・・・・・・あたしは後悔しない…
「…ありがとうございます、お姉さん」
「そう、よかった!・・・じゃ、このままお式で喧嘩する前に、司にも言い訳させた方がいいかしらね。呼んで来るわ。」
お姉さんはにっこり笑ってそう言うと、あたし達を2人きりにしてくれた。
タキシードを来た道明寺が少し緊張した表情であたしに近づいて来る。
ドレス姿のあたしを見て、あいつは顔を赤くして言った。
「ま、牧野…おまえ今日サイコ―にかわいー…」
「…ありがと。あんたもかっこいいよ」
赤面がうつる・・・・・・・二人ともゆでだこ状態だ。
「・・・・・・それにしても、今日はやってくれたわね…これはあんたが考えたって聞いたんだけど…」
「ああ、悪かったな。手荒なことしちまって…」
「そうよ…びっくりしたんだからっ」
あたしはぷんと頬を膨らませた。あいつはバツが悪そうな表情をする。
「今まで散々だったから、一度おまえとサイコ―に幸せな思い出を作りたいと思って…迷惑だったか?」
「…ううん、嬉しいけど。でもこれってまるで結婚式だよ。だいたいあたしたちつきあってそれほどたってもいないし、
デートだってまともにしてないのにましてや結婚なんて…あんたはこれでいいの?」
「俺は別におまえと将来結婚してもかまわねぇって思ってるけど?」
「バッ・・・・!バカねえっ。あんたは良くてもあたしの気持ちはどうなんのよっ」
あたしは顔が赤くなる。あいつの顔をまともに見られない。
「嫌なのか?」
ほんっとこいつは強引だ。でもそういうところが憎めなくて、いつもあたしは振り回されて・・・・・・
あたしの返事がNOって言うわけないって、絶対思ってるくせに・・・・・・・・
「い、嫌じゃないっ…けどっ」
「じゃ、決まりだな。…そろそろ行こうぜ、みんな待ってる」
道明寺はあたしの頭に大きな手をぽんと乗せて嬉しそうに言った。
参列者は椿お姉さん、F3、和也君、優紀、滋さん、桜子の8人だけ。がらんとした教会にパイプオルガンの音色が響き渡る。
「つくしちゃぁーん、きれいだよぅ〜」
「・・・ほんと、つくし、きれい・・・」
バージンロードをあいつと腕を組んでゆっくりと歩く。
本当の結婚式じゃないけど…こんな日がくるなんて夢にも思わなかった。
まだ「好き」から「愛してる」に変わる発展途上の恋愛をしているあたしたちが、教会で愛を誓うなんて・・・・
・・・とても照れくさくなってあたしは返事をする声が震えてしまう。
あいつが小さな声であたしに聞く。
「俺…今どんな顔してる?」
あたしはぷっと笑ってそれに答える。
「タコみたいに真っ赤・・・・笑える…」
「…おまえこんな時までタコって言うなよ・・・俺、すっげー嬉しいのに…」
ますます顔が赤くなる。
「道明寺…あたしすごく幸せだよ・・・・・・今日があたしたちの『スタートライン』だね。」
「ああ…おまえ、もう俺から逃げるんじゃねーぞ。一緒に幸せになろうぜ」
あたしたちはキスを交わした。
今日のこの日をあたしは一生忘れない。
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「おめでとー!!」
みんなの声、拍手、ライスシャワーに囲まれて式は終わった。
「・・・・・・それにしてもやっと落ち着いたなあ。あきら」
「・・・・・・ああ、ここまでホントにいろいろあったなあ。総二郎」
な・・・・何よ。
「苦節12年か・・・・・・長かった・・・・・・やっと俺達猛獣のお世話から卒業だなぁ・・・」
「・・・そして司と牧野は童貞&処女の卒業か・・・・・・おにーさん達は嬉しいっ」
「ま・・・司。牧野を泣かせたら俺が牧野さらっちゃうよ?」
西門さんも美作さんも・・・花沢類まで真顔で冗談にもならないことをサラリと言う。
道明寺は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「おまえらうるせーっ。るいっ!俺がこいつを幸せにするんだからおまえには絶対やらねーよっ!」
「あたしは物じゃないっ!道明寺っ、そうやってすぐ怒るくせ直しなさいよねッ!」
「うるせーっ!おまえだってすーぐ怒るくせして、逆ギレしてんじゃねえよっ!」
あたしたちはお互いに赤くなりながら言い合った。
・・・ああ、あたしたちって進歩ない・・・・・・。
みんなはやれやれという顔をして苦笑している。
「ま、夫婦ケンカは犬も食わないっていうしね・・・・・・俺達はそろそろ退散するとしますか。」
「え?もう帰っちゃうの?」
みんなと一緒にいたいのにな・・・と思ってると西門さんが呆れた顔であたしを見る。
「ばーか。新婚さんのお楽しみを邪魔するわけにはいかねえだろ?・・・じゃな。」
「つくしちゃん、司が変なことしたら遠慮なく殴っていいからね」
お・・・お姉さんまで・・・・・・。
そう言うとみんなはにこにこ笑いながら帰っていってしまった。
「ちょ・・ちょっと待ってよ、みんなぁ・・・」
後ろであたしの様子を見ていた道明寺がにやっと笑って言った。
「・・・・・ま・・・・・・あいつらも気を利かせてくれたことだし・・・・・・行くか」
「・・・・・・行くって・・・どこによ」
「うちの別荘」
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