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≪出発の日まであと3日≫
【問題】
パーティーが盛り上がりを過ぎて、女の子同士で集まっておしゃべりをしてた頃、道明寺とF3が別室へ行くのが見えた。
西門さんも美作さんも話を一緒にしてくれるようだ。
・・・・・・・・・変なこと言わなきゃいいけど・・・
あたしはちょっとだけ心配になる。
帰りにタマさんに会いに行った。あたしの話を聞いたタマさんは自分のことのように喜んでくれた。
「よかったねぇー。あたしゃ嬉しいよ。やっとぼっちゃんが元に戻って・・・・・・」
「センパイ、いろいろご迷惑をおかけしました」
「何、言ってんだよ。水臭いねえ。・・・・・・ところで・・・」
急にタマさんが心配そうな顔になる。
「ぼっちゃんがつくしのことを思い出したのはいいけれど・・・・・・どうするんだい?
奥様の言った約束の日まであと2日しかないんだろ?ぼっちゃんがNYに大人しく行くとは思えないねえ」
「・・・・・・・」
花沢類も同じこと言ってた。
「・・・つくしはどう思ってるんだい?」
「・・・・・・・あたしは・・・まだよくわかりません。あいつと一緒にいたいとは思ってます。
ただ・・・一年前、あの状態であたしたちのことを許してくれたあいつの母親の気持ちを考えると、
あいつと一緒にいるのが本当にいいのかって思うんです・・・」
そう、これがあたしの正直な気持ちだ。タマさんはそんなあたしをまっすぐに見ると、深いため息をついた。
「・・・・・・・あたしは何も言えないけれど・・・・・あたしはつくしとぼっちゃんがただ幸せになってくれるのが一番嬉しいから・・・
がんばんなよ。応援するから」
「・・・・・・ありがとうございます」
ひとつ問題が解決した代わりに、またひとつ新しい問題が増えたのだ。
昼休みはもちろん、放課後になっても道明寺は学校に来なかった。F3も見かけない。
昨夜遅くまで話していたのだろう。きっと疲れて寝てるんだろうな。
記憶を失ってた一年間の話をあいつはどんな顔をして聞いたのだろう?
知らない間に多くの時間が過ぎ去っていたのを知って驚いてるとは思うけれど・・・・・・
あたしだったら・・・落ち込むだろうな・・・。
そう考えると道明寺家に向かう足取りが重くなる。
・・・・・・道明寺家に着くとメイドさんに部屋に案内された。まだみんなは来ていない。
しばらくして椿お姉さんが入って来た。こうして会うのはいつぶりだろう。
「つくしちゃん!!良く来てくれたわッ。話聞いたわよ。司の記憶が戻ってよかったわね・・・・・・!!」
少し涙ぐんだお姉さんは、相変わらず強い力であたしを抱き締める。
「・・・お、おねーさん・・・お久しぶりです・・・・・」
ガクンガクン抱き締められたままゆすぶられ、あたしは息が詰まりそうになった。
「・・・あら、あら・・・ごめんなさいね。つい嬉しくって・・・・・・それはともかく・・・・・」
お姉さんは急に真剣な表情になる。
「・・・・・・司がね・・・ずっと部屋に閉じこもって出てこないのよ。誰も部屋に入れないのよ。
記憶を取り戻したんだからもっと喜んでいいはずなのに・・・・」
あたしの心の中で心配していた不安が的中した。
「・・・・・とりあえずあたし、あいつに会いに行ってきます」
道明寺のいる部屋まで案内してもらい、あたしはドアをノックした。
「道明寺・・・・・いるんでしょ?あたし。牧野。入るよ・・・」
部屋に入ると、あいつが窓際に立って外を見ているのが見える。後姿なので、あいつがどんな表情をしているのかわからない。
「ねえ、こっち向いてよ・・・・・・話しよ・・・」
「・・・・・」
あいつは黙ったままだ。
道明寺の顔を見ようとそばに近づくと、あいつは急にあたしの両肩をつかんであたしをベットに押し倒した。
「ちょっ・・・・・・・・」
つかまれた肩を押さえつける腕の力が強くてあたしは逃げられない。
あいつの怒った、でも悲しみを含んだ瞳があたしを睨みつける。
「・・・・・して・・・・・・・・」
「え?」
「・・・どうしておまえはいつもそうなんだよッ。何でも一人で決めちまうんだ!!
一緒にババァと闘うんじゃなかったのか?『NYに行かないで』って言ったの嘘だったのか?」
「・・・・・・!!・・・違うよ!あの時は本気で・・・・・・」
「だったらなんであいつとあんな約束しちまったんだ!あと3日?冗談じゃねぇよ!俺はずっとおまえの記憶を無くしてたんだ。
おまえと一緒にいた記憶なんてこれっぽっちもねーんだよ!!目が覚めたらあれから一年もたってたなんて・・・・・
いくら類たちに話を聞いたところで、『はい、そうですか』なんて信じられるわけねえだろッ!!」
・・・・・こいつは・・・・・いつもそう。自分の気持ちをあたしにこうやってぶつけるんだ。
あたしの気持ちなんてお構いなしで。
・・・あたしがどんな気持ちで目の前で刺されたあんたを背負ったのか、病院で悲しくて泣いたか。
記憶の無くなったあんたを見てたかなんて、知らないくせに・・・・・覚えてないくせに・・・・・・・・!
バシッ!!
あたしは我慢できずに震える手で思い切り道明寺を殴った。あいつはびっくりしてあたしの肩をつかんだ手を緩める。
その隙にあたしは立ち上がってあいつと向かい合った。自然とあたしの目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「・・・・・怒鳴らないでよ、バカッ!! あたしが本気であの約束をしたと思う?あたしだってあんたと一緒にいたいわよ!!
・・・・・・でもあの時あんたは刺されて・・・あんたの母親だって心配して飛んできたのよ!!
あんたが小さい頃大事にしてたあのぬいぐるみを持って!」
あたしは部屋の隅のテーブルに置いてあった、汚れたぬいぐるみを指差して言った。
「自分の子供の命を心配しない親なんていないわよ!あの人はどんな形にせよ、あんたのことを大切に思ってる!
・・・ただあんたにはちょっとわかりにくいかもしれない。そんな不安や思いをきっと抱えてたはずなのに、
あの人は一年間だけあたしがあんたと一緒にいることを許してくれたの。このまま離れ離れにだってできたはずなのに、
・・・あの人はそれをしなかった・・・・・・」
「・・・・・・・・」
道明寺はショックを受けたように立ち尽くして、ただあたしの話を黙ったまま聞いている。
「・・・・・死にそうだったあんたが生きててくれて、それだけで嬉しかったよ・・・・
・・・・期限付きだけどSPに監視されることもないで、普通の恋人みたいにあんたと一緒にいられるって思ってた・・・・・・
目を覚ましたあんたがあたしのことを忘れたことを知るまでは」
「・・・牧野、俺は・・・・・・・・」
「・・・もちろん悪いのはあんたじゃなくてあんたを刺した犯人。
・・・・・・こんなこと、ほんとは言いたくなかったけれど・・・やっぱりショックだったよ。
だってさっきまであたしのこと好きだって言ってた人が、あたしのことを知らない人を見るような目で見るんだもの。
何度お見舞いに行ってもいつも冷たい目で追い返されて・・・・・・・
・・・・で、あたしはそんなあんたに耐えられなくて、一度記憶の無いあんたに別れようって言ったの」
あいつは目を大きく開いてあたしを見た。
「・・・冷たい目で見られても好きだったよ。でもあんたは他の女の子と一緒にいた。
あたしには見せてくれない優しい顔であんたはその子と笑ってた・・・だからあんたにはあたしは必要ないんだって思って・・・
あたしはあんたと別れることを決めたの」
「・・・その女のことは類たちから聞いた・・・・・・・・」
道明寺が苦しそうに言う。
「・・・・・・・・あんたのこと忘れようと思って努力した・・・でも、どんなに頑張ってもできなかった。
あんたのこと忘れてないあたしが心の中でいつも言うの。このままあんたがあたしのこと思い出さないままNYに行ってもいいのか、って。
あたしは後悔したくないからあんたがNYに行くまでの7日間、もう一度あんたを好きだったあたしに戻って、
例え記憶を思い出さなくてもあんたのそばにいるって決めた・・・・・・・決めてたのに・・・・・・」
さっきから涙が止まらない・・・どうしたんだろう・・・こんなの、あたしらしくない。だけど・・・・・・。
あたしは両腕であいつの胸を泣きながら叩き続ける。
「・・・・・・・・どうしてそんなこと言うのよ・・・あたしだって辛いに決まってる・・・・・・一緒にいた記憶がこれっぽっちもないって・・・・・?
あんたが勝手に覚えてないだけじゃない・・・・・あたしがどんな気持ちでずっとあんたを見てたか、
あたしの記憶を取り戻してくれて嬉しいかなんて、あんたなんかに絶対わかんないんだから・・・・・・・・・・・・!!」
あたしはこれまでにないというくらい道明寺の腕の中で派手に泣いた。あいつは何も言わない。
あたしの背中に腕を回して優しくただ抱き締める。大きな手があたしの背中をなでているのがわかった。
・・・ひとしきり泣いたあと、あたしは泣き腫らして真っ赤になった目を隠すようにあいつから離れた。
「・・・・・・・ごめんね。こんなこと言うつもりじゃなかったのに・・・」
うつむいてあたしが言う。複雑な顔をした道明寺は大きな手であたしの頭を優しくなでる。
「・・・俺こそ・・・ごめん。おまえを泣かせてばっかりみてーだな・・・でも、一緒にいたいって思う気持ちに嘘はねえよ・・・
おまえがいるなら俺は他に何もいらねえ。『家を出る』って言ったのも本気だ。
・・・・・・それでもおまえは俺にNYに行けと言うのか・・・・・・?」
あたしはうつむいたまま静かに言った。
「・・・・・・・・今日は・・・何だか疲れちゃった・・・・・・明日また来るから・・・返事はその時にする・・・・・・
あたしもう帰るから・・・・・・みんなが来たらよろしく言っといて・・・・送らなくていいから・・・」
「・・・ああ・・・・・・・・わかった・・・」
あたしは鞄を持って部屋を出た。
・・・・・・足が重い・・・・・
椿お姉さんがあたしに気付いて何か話掛けようとしたが、あたしの赤くなった目を見ると何も言わずにただ見ていた。
「・・・すいません。今日あたしもう帰ります・・・明日もまた来ますから・・・」
「そう・・・気をつけてね・・・・・・」
あたしはぺこっとお礼をすると、道明寺家をあとにした。
空には昼間とは違う、どんよりとした灰色の雲がどこまでも広がっている。
あたしは何もかも振り切るように、家までの道のりを思い切り走り続けた------------------------
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【優しい人】
家に帰ると、花沢類がアパートの前であたしを待っていた。
「・・・びっくりしたあ。どうしたの?今日は道明寺の家に行かないの?」
「うん、昨日3年分くらい話したし・・・おまえこそなんで?司と一緒にいるんじゃないの?」
「・・・・・花沢類の3年分の会話って・・・・・。・・・・・もう道明寺には会って来たの・・・とりあえず、ここで話すのもなんだし家に入って」
あたしは花沢類を家にあげると、湯を沸かしてお茶を用意した。
「ごめん。コーヒーとか今切らしてて・・・・・・」
「いいよ。おかまいなく」
温かい緑茶がさっきまで泣いてたあたしの心をほっとさせる。
「・・・・・・・で、どうしたの?何か話があるんでしょ?」
「・・・牧野に会いたくなっから来た。それだけ・・・目が赤いね。泣いてたの?」
花沢類にはあたしのこと全てお見通しって感じだ・・・・・・あたしは道明寺との一件を話した。
「・・・そっか・・・・・・・あいつ、やるんじゃないかとは思ってたけど・・・・・」
ふうっと彼がため息をつく。
「できるだけ、あいつが動揺しないように慎重に話したつもりだったんだ・・・・・・・・・
昨日あいつに全部話したけれど、やっぱり相当ショック受けてた。最初でこそ面白がって聞いてたけど、
牧野のこと忘れたことを話してからは、黙りこんじゃって・・・・・・母親との約束の話は最後にしたんだ。
あいつ、信じられないって顔してた。あいつ最後には怒って『帰れ!!』って俺達のこと追い返したんだよ・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・司は、牧野と一緒にいたいって言わなかった?」
「・・・言われたよ。でも今はそうすることが本当にいい方法だとは思わない・・・・・・。あいつは一度母親と話をするべきだと思う。
そりゃ、今までひどいことをされてきたけど・・・・・・でも・・・このままだとあいつは何にも知らないまま、
あたしの為に親を捨てかねないから・・・・・・」
あたしはうつむいていた顔を上げて少し笑った。
「・・・・・・花沢類の言った通りだね。いざあいつが記憶を取り戻したら、あたしどうしていいかわかんなくなっちゃった・・・
・・・あたしこんな偉そうなこと言ってるけど、何もかもかなぐり捨ててあいつと一緒にいたいって思ってる、
もう一人のあたしも心の中にいるってわかってるんだ。
・・・・・・でもね・・・やだ・・・・・さっきあんなに泣いたのに・・・もう、や・・・・・・だ・・・・・」
また涙があふれて来る。花沢類はテーブル越しに腕を伸ばすと、あたしの頭をくしゃっとなでて言った。
「・・・・・牧野の思いはきっと司に伝わるよ・・・あいつは牧野に出会ってから確実に変わって来たから。
・・・ほら、そんな顔するな。司はおまえが喜ぶ顔を見るためならなんだってする奴だよ。だから思ってること全部司にぶつけなよ。
それで簡単に壊れるような関係じゃないだろ?
・・・・・・・・俺だって牧野の泣いてる顔より笑った顔が見たいし。あんまり泣くと目玉が溶けるよ」
「・・・ぷっ、何よそれ・・・・・・」
「そうそう、笑ってこそ牧野つくし。俺はおまえが辛い時は必ず支えてやるから」
花沢類が優しく微笑んで言った。
こうしていると、あたしたち非常階段にいるみたいだ・・・・・・・
花沢類の言葉ははどうしてこんなに心に響くんだろう?
苦しい時はいつもこの人がいる場所にあたしは来てしまう。何度感謝しても足りない。
あたしを支えてくれるこの人のためにも・・・・・・・・・
・・・・・・泣いても笑っても道明寺がNYに行くまであと2日。
それならあたしは、あいつと出来るだけ多くの時間をたくさん笑って過ごしたい。
あたしはあいつのそばにいる-----------------------------
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