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≪出発の日まであと5日≫

 

 

【ランチタイム】

 

 

お昼休みに屋上の扉を開けると、昨日と同じ透き通るような青空が広がっていた。

道明寺はまだ来ていない。

 

あたしは昨日と同じ場所に腰を下ろし、道明寺が来るのを待つことにした。

ぎゃあぎゃあわめく声が遠くで聞こえる・・・・・・・・

急に屋上の扉が開けられたかと思うと、道明寺が二本の足に蹴飛ばされて飛び出してきた。

 

「くそっ、おまえらッ、あとで覚えとけよッ!!」

青筋を立てた道明寺が扉の方に向かって怒鳴っている。

 

「・・・・・・・何見てんだよ」

あたしの視線に気付いたあいつは思い切り不機嫌そうに言う。

「プククッ・・・・・・よかった。来てくれたんだ。こっちでお弁当一緒に食べよッ」

「笑うなッ、俺は来たくなかったけど、あいつらに無理矢理連れて来られたんだよッ」

「でも来てくれたんだ。ありがとね」

 

 

あたしはにこっと笑ってそう言うと、お弁当を取り出して道明寺にひとつ渡す。

あいつは何も言わずに受け取ってお弁当を膝の上で広げた。

 

「・・・・・・・・なんだこれ、緑色したのは。草か?」

「あのねえ、これはほうれん草よ。栄養あるのよ」

「鳥のエサみてえ、人間の食いもんか?」

 

こいつはほんとに相変わらずだ。贅沢が身に染み付いてんだろうな。よくこれで家を出るなんて言ってたもんだ。

あたしは呆れ果てて思わずため息が出た。

 

「・・・・・・・あんたねえ、食べ物が食べられるのって幸せなことよ。感謝しなきゃ」

「おまえ、毎日こんなん食べてんのかよ」

「一般庶民はこれが普通よ。変なのはあんたの家。ほんと、作り手の苦労をわかってないというか・・・」

「・・・・・・・・なんかそれ、前にも言われたことがある気がするけど、ふーん。そんなもんか」

 

あたしはその言葉に嬉しくなる。こんな些細なことで嬉しくなる自分が愛しい。

あいつは相変わらずもくもくとお弁当を食べている。そして思い出したように口を開いた。

 

 

「そう言えばおまえ、今日夜来るのかよ」

「ああ、行くわよ。何で?」

「・・・・・別に。・・・・・・そういえば変なんだよなあ。あきらたちと話したんだけど、

英徳って毎年ハワイでサマースクールしてたはずなのに、この前あったのって俺んちのクルーザー使って熱海でやったんだよなあ。

おまえ参加してた?」

 

 

あたしは事故とはいえ、あいつとのファーストキスを思い出してドキッとする。

 

「・・・・・・・・い、行ったけど、途中から参加したのよ。ほらッ、うちってボンビーだから」

 

あはははとあたしは乾いた笑いをした。そんなあたしを道明寺がいぶかしげに見ている。

 

「なんだおまえ、気持ち悪いやつだなあ。顔が赤いぞ」

「えっ?そう?き、気のせいじゃない?」

 

 

変な目であたしを見る道明寺。・・・・・・ああ、今夜はどうなるんだろう。

あたしはあいつに気付かれないように小さなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

【変化】

 

 

みんなと道明寺家で待ち合わせて一緒に港へ向かった。

 

・・・・・・・・久しぶりに見た、道明寺のクルーザー・・・。思えば、これに乗るのはあいつの誕生日以来だ。

そういえば、あの時にあいつの母親と初めてあったのよね・・・あの頃を思い出してとても懐かしくなる。

決していい思い出ばかりじゃなかったけれど。

 

 

「せんぱーい、何ボーっとしてるんですか?早く仕度しましょう」

「そうそう、今日はつくしが主役なんだからッ」

 

 

あたしは緊張してるんだって!・・・・・・と言っても、この二人にはわかんないだろうなあ。

桜子と滋さんは機嫌がいい。今日は優紀も来てくれた。元気そうであたしはちょっと安心する。

 

あたしと優紀は滋さんから借りたかわいいピンクのドレスを着て、メイクを桜子にやってもらった。

・・・・・・・・こうやっていると静さんを思い出す。あたしの今でも憧れる素敵な女性。

パリでもきっといい靴を履いて仕事頑張ってるんだろうな・・・・・・。

 

初めてこのクルーザーに乗った時、あたしは花沢類が好きだった。静さんといる花沢類を見てあたしは苦しくて切なくて涙が出た。

 

 

 

2度目に乗ったのは・・・・・・・・道明寺の誕生日。気が付いたら連れて来られたのがここだった。

二人ともお腹がすいて釣りをしたけど釣れたのはワカメばかりで・・・・・・・・。

 

そうそう、あいつってばワカメのこと「巨大コンブ」って言ったのよね・・・・・

ぷくく・・・・・と思い出し笑いをしていると桜子が気持ち悪そうに私を見る。

 

「メイクしてるんですから、変な顔がもっと変になりますよ。・・・・・・・・はいできあがり!」

「つくし、かわいーっ」

「・・・ありがと。みんなもかわいいよ」

 

鏡の前のあたしはいつものあたしじゃないみたいだ。小さい頃に憧れてたお姫様になったみたい。(っていうのは言い過ぎだろうけど)

 

「おっ、お姫様達のご到着ですよ」

 

サマースクールの時のようにスーツを着ているF4は、普段よりもっと格好良く見える。

道明寺はあの夜と同じストレートヘアにしていて、あたしの心臓は高鳴った。なんだかあいつをまっすぐ見れない・・・・・・・・・

 

早鐘を打つ心臓を抑えながら、あたしは勇気を出してあいつのそばへ行った。

 

「・・・・・・・道明寺のストレートヘア、久しぶりに見る・・・かっこいいよ」

 

思わぬあたしの言葉にあいつは顔を真っ赤にすると、フンとふんぞり返ってあたしを見下ろした。

「ふ、ふん。当たり前だ。おまえも『うまこにも衣装』だな」

 

・・・・・・やっぱりこいつ変わってない。でもそんなこともあたしには嬉しい。

「あんたねえ、それは『まごにも衣装』って言うの!あんたこのままNYに行ったら、英語を覚える前に日本語先に忘れちゃうんじゃないの?心配だわ」

「う、うるせえ、ちょっと言ってみたかっただけだよ。おまえなんかに心配されなくても俺は大丈夫だっ」

 

 

呆れ顔であたし達を見ているみんな。

「おまえら・・・・・・・相変わらずだなあ・・・・・・・・ほら、乾杯するぞ」

みんなは既にグラスを持ってあたし達を待っている。慌ててあたしもグラスを持つ。西門さんがグラスを高く掲げた。

 

 

「それではっ、司と牧野とみんなが幸せになれることを祈って・・・乾杯!!」

 

・・・・・・・・あたしは胸がチクンと痛くなった。

 

 

 

 

 

    ************************************

 

 

 

 

あたしは部屋の外に出て真っ暗な海を見ていた。少しだけ赤くなった頬に冷たい潮風が当たる。

 

・・・・・・吸い込まれそう・・・・

 

あたしはじっと暗い海を覗き込むように見つめた。

 

 

「牧野。大丈夫?」

 

花沢類の声にあたしは振り向く。

「うん、今日はそんなに飲んでないから」

「ずっと海を見てるから、そのまま飛び込むのかと思った」

「やーね、そんなことあたしがするわけないじゃない」

 

 

あたしは笑って言う。花沢類はいつもあたしの心を見透かしているようで、時々その言葉にあたしはドキッとさせられる。

 

花沢類は優しく微笑んで言う。

「・・・・・・じゃ、何考えてんの?」

「ううん・・・・・・この先のことを考えるとちょっとだけ不安になっちゃって・・・・・・・」

「この間司にタンカ切ってた牧野はどこ行ったの?」

 

「・・・・・・あはは、そうだよねえ。あいつをあたしに惚れさせるなんて大層なこと言っちゃったけど、本当はそんな自信ないんだ・・・。

ただ、ケンカしても前みたいに楽しくあいつと過ごせたらなって」

 

「まあ、確かに牧野にしては無謀だよね」

「!! ちょっとそれはないんじゃないの?あたしなりに必死だったんだよ、あの時」

 

あたしは真っ赤になって花沢類を睨む。

「プププッ わかってるって」

「もう、人のことバカにして」

 

いつもそう・・・目の前で優しく笑うこの人はあたしをからかうけれど、辛い現実で溺れているあたしを救い上げてくれる。

 

「みんな待ってるよ。そろそろ行こう」

 

あたしたちは部屋に戻った。

 

 

 

 

 

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牧野がいない。・・・・・別に俺は探してるわけじゃねーけど。ただ、気になるだけだ。

何度も「俺が好き」だなんて言っておきながらほんとは違うんじゃねーかって思う。

あいつのこと嫌いじゃないけど・・・・・・あいつも他の女と一緒なんじゃじゃねーの?

俺の記憶に関係あるとしても。

 

 

すっきりしない気持ちを抱えて部屋の外に出ると、牧野と類が話しているのが目に入った。

つきあっているわけではない。そう聞いていてもあの二人が楽しそうにしているのを見ると何だか無性にイライラしてくる。

 

 

 

・・・・・・・・なんで俺、こんなに腹が立つんだ?

 

 

 

俺といる時も牧野は笑った顔を見せるけれど、類といる時みたいな笑顔は見たことが無い。

 

・・・・・・やっぱりあいつは嘘つきだ。俺のこと好きだなんて嘘。あきらも総二郎もあいつの肩を持つけど、みんな騙されてるんじゃねーの?

バカバカしいパーティーなんか開きやがって…こんなのF4じゃねえ。

 

 

「司?どうした?飲まねーの?」

あきらの声が聞こえる。

 

「・・・・・・うるせえ。俺はもう帰る」

 

「えーっ、これからがメインなのに。つかさってばとうしたの?」

滋が俺の肩に触れた。

 

「・・・気安くさわんじゃねーよ」

 

俺の声にさっきまでにぎやかだった部屋が水を打ったように静まり返る。

牧野と類が戻って来た。俺は牧野を睨みつけて言った。

 

 

「おまえ、何度も俺のこと好きだなんてよく言えたよな。この淫売が。ほんとは類のことが好きなんじゃねえの?」

 

「ちょっ・・・・・・・・」

 

あいつは何か言いかけたが、そんなのは知らない。

 

「・・・俺は何にも聞きたくねえ。もうたくさんだ。だいたいおまえらもおまえらだ。そんな女ごときにデレデレしやがって。

一体何考えてんの?F4ってこんなんだったか?おまえら頭おかしくなったんじゃねーの?」

 

「司」

 

類が見たことのないような険しい目で俺を見る。

「・・・・・なんだよおまえ。やるつもりか。牧野なんてくれてやるよ。俺をバカにしやがって。

おまえにはその女がお似合いだぜ。記憶なんてもう知るか。俺はなあ・・・ずっとイライラしてたんだよっ!!!!」

 

 

俺はもう我慢の限界だった。震えるこぶしをもう抑えることが出来ない。

類に殴りかかるとあいつは最初の一撃をすれすれの所でかわした。

・・・・・・少し驚いて類を見る。類の拳が今度は俺に飛んでくる・・・・・・はずだった。

 

 

 

バシッ

 

 

 

当たったはずなのに・・・痛くない。

条件反射で閉じた目を開くと・・・・・・・・・・・・・・・その瞬間、俺の胸に何か重い衝撃。

 

 

 

ピンクのドレスを来た牧野。

 

・・・・・・どうして俺の前に・・・・・・・

 

 

 

 

俺は何が起こったのか飲み込めず、足元がふらついてそのまま後ろに倒れた。

女どもの悲鳴と、後頭部を襲う鈍い痛み。

 

 

 

 

そこで俺の記憶は途切れた------------------------------      

 

 

 

 

 

 

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