<3>
≪出発の日まであと6日≫
【約束】
昼休み、あたしはF4がいる場所に向かった。
今日は花沢類が来ていない。きっとまだ寝てるんだろうな。
「おっ、牧野が来た」
美作さんがあたしに気付く。
「おはよ。・・・・・と言ってももう昼だけど」
あたしは壁にもたれて座っている道明寺をちらっと見た。何を考えてるのかわからない、無表情だ。
あいつはあたしの方を見ると口を開いた。
「・・・・・・何か用があって来たのかよ」
「うん、お弁当一緒に食べようと思って」
「はあ?弁当?おまえが作った?」
「そうよ。悪い?」
しばらくぽかんとあたし達を見ていた西門さん達だったが、はっと気が付いたかのように顔を見合わせると、戸惑っている道明寺に言った。
「じゃ、司。俺達ちょっと用あるから。またあとでな」
「ちょっ・・・・・・おまえら俺を置いてくのか」
道明寺の言葉を最後まで聞かないで、西門さんと美作さんは行ってしまった。
「・・・おまえは・・・・・・何考えてんだよッ」
あいつの乱暴な言葉にドキッと身体が固くなる。でもあたしは平静を装って笑って言った。
「まあまあ・・・・・・今日はいいお天気だから屋上に行こう」
あいつは小さなため息をついてしぶしぶと腰をあげた。
屋上へ続く扉を開けると、きれいな青空が広がっていた。今日は風はあまり吹いていない。
適当な場所に腰を下ろすと、あたしは持ってきたお弁当を広げ始めた。
「あんたの口に合わないかもしれないけれど、庶民の味もなかなかのものよ。ほら、これなんてどう?」
あたしは卵焼きを指してあいつに薦めた。道明寺は黙ってそれを口にする。
「・・・・・・ふん、よくわかんねえけどちょっとはうまいんじゃないの?」
あたしはその言葉に嬉しくなって笑顔になる。
「ほんと?じゃ、これはどう?」
今度はえのき茸のベーコン巻を薦めてみた。
「・・・・・・・これは個性的な味だな」
昔聞いたことのあるあいつのセリフ。やっぱり少しずつだけど記憶が戻って来てるのかもしれない。
黙ってお弁当を食べていたあいつが聞いた。
「なあ、おまえの弁当食べるの、俺初めてじゃねーよな」
「え?どうしてそう思うの?」
「・・・・・・・別にうまいからってわけじゃねーんだけど。病院でも同じ物食った気がする・・・・・・・・あれ、おまえが作ったのか?」
あたしはその言葉にどきっとした。
「・・・・・・・あれは海ちゃんが作ったんじゃないの?」
「いや、違う。あいつが作ってきた弁当食ったことあるけど、病院で食った物とは違った」
そう、本当はあたしが作った物だ。でも・・・・・・・あの時の病室での海ちゃんと道明寺を思い出すとあたしは素直になれない。
「なんでそう思うの?お弁当なんて誰が作っても変わんないよ」
「何だよおまえ、つっかかってくんなあ。食べてる俺がそう言うんだから間違いねーよ。
それに・・・・・・・・・何か昔にも食ったことあるような気がするんだよ」
あたしは泣きたくなった。たったこれだけのことで。あたしは立ち上がって空を仰いだ。
「うおっ、おまえ急に立ち上がんなよ。トイレ行きたいのか?」
「違うわよ。バーカ」
「なんだと、おまえ、また俺のことバカと言ったな。ったく何なんだよ」
あいつに見られないように背を向けて涙を拭くと、あたしは笑って言った。
「ね、これからしばらくここで一緒にお弁当食べない?あたしあんたの分も作ってくるから」
「俺の分も?俺に毎日ボンビー食食えってんのか?」
「いいじゃない。NYに行ったらどうせ毎日豪華な食事になるんでしょ。社長になる人が一般庶民の食生活知らないなんてバカにされるわよ」
しばらく難しい顔をしていた道明寺だったが、はーっと大きなため息を一つ吐くと、降参したかのように片手を挙げて言った。
「おまえは人のことバカバカ言うなッ・・・・・・・わかったよ。しょーがねーから来てやるよ」
「やったあ。じゃ、お昼休みになったらあたしここで待ってるねッ」
些細なことだけど、あいつとひとつ約束が出来てあたしはすごく嬉しい。
相変わらず雲ひとつないきれいな青空に、秋の始まりを知らせる少し冷たい風があたしの髪をなでて通り過ぎて行った-------------------------
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【氷解】
放課後になるとあたしは道明寺家に向かった。
もうすぐあいつの家の前・・・・・という所で海ちゃんに会った。あたしが声を掛けると、びっくりしたようにあたしの方を見る。
「つくしちゃん・・・・・・久しぶりね」
出会った時と変わらない太陽みたいな笑顔。
「うん・・・・・・・・ね、これからちょっと時間いいかな。話があるの」
海ちゃんは何か感じたらしい。うなずくと黙ってあたしについて来てくれた。
あたしたちは近くの公園に行くとベンチに腰を下ろした。少し離れた砂場で小さな男の子と女の子が遊んでいるのが見える。
「急にごめんね。呼び止めて」
「え?いいよお。こうやって二人で話すの久しぶりだし・・・・・・・つくしちゃん、元気だった?」
「うん。海ちゃんは?」
あたしの言葉に海ちゃんはいつものように太陽みたいな笑顔でにこっと笑う。
「あたしはいっつも元気だよ。毎日楽しいもん」
「そっか・・・・・・・・」
あたしは小さな深呼吸をして海ちゃんの方をまっすぐ見る。
「海ちゃん、道明寺のこと好き?」
海ちゃんはあたしの言葉に驚いた顔をしてあたしを見る。
「何、つくしちゃん、いきなり・・・・・・・びっくりしたあ」
「真剣に答えて欲しいの。道明寺司のこと好き?」
「・・・・・・・好きだよ。一緒にいたいって思う。あたしつくしちゃんに前に言ったよね。あの頃からあたしの気持ちは変わってないよ」
「あいつがNYに行くのは知ってる?」
「うん・・・・・・・・聞いた。だけどしょうがないよね。所詮、あたしたちとは違う世界の人だもん。
付き合ったとしてもずっと一緒にいれるなんて思ってないよ。つくしちゃんだってそうだったんでしょ?」
あたしはその言葉にショックを受けた。確かに、あたしは何度も道明寺と生きる世界の差を感じて逃げ出したくなったことが何度もある。
あいつの母親にひどいことされたりもした。
それでも・・・・・・・
どんなことをされても、記憶が無くなっても今のあたしはあいつと一緒にいたいと思っている。
「海ちゃん・・・・・・・あたしね道明寺のこと今でも好きだよ」
「え・・・・・・・・?」
「確かにね、あたしは記憶を無くしたあいつから逃げたよ・・・・・・・・忘れようとしてた。
でもね、今まであいつと過ごした時間を思い出すとやっぱりあきらめられない」
「・・・・・・・・・」
「道明寺はあたしたちと違う世界に生きてる。NYに行ってしまったらもう会えなくなるかもしれない。
だけど、思い出を共有できないわけじゃない。一緒にいるだけが恋愛じゃないもの。
・・・・・・・好きな人とは一緒にいたいとは思うよ。思うけど・・・・・・・あいつの人生まであたしは邪魔できないから」
海ちゃんは黙ってあたしを見つめている。
「あいつがNYに行ってしまって一緒にいれなくても、いいの。ただそれまで、あいつがまだ日本にいる間は誰よりもそばにいたいの。
どんなことがあっても。あいつが誰を好きになっても。記憶を思い出さなくても」
「・・・・・・・・つくしちゃんって強いね・・・・・・・」
海ちゃんはふうっとため息をつくとあたしから視線を外す。
「あたしね・・・・・・・つくしちゃんが来なくなってから何度も司君に会いに家に行ったの。
退院したばかりでまだ身体の調子が良くなかったのかもしれないけど、司君、あたしが会いに行ってもいつも何か考えこんでた・・・・・・・
・・・・・・笑わないの。あたしの方もまっすぐ見てくれない。あたしが話し掛けても聞いてるのかわからない。何で?って何度も思った・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・あたし司君に告白したの。でも何も言ってくれなかった・・・・・・・お弁当も作って行ったんだよ。
・・・・・・そしたらね、何て言ったと思う・・・・・・・・?」
あたしは何も言えなかった。ただ淡々と話す海ちゃんを見つめた。
「『病院の時のお弁当はあたしが作ったんじゃない』って。
お弁当なんて誰が作っても一緒だって思ってたからびっくりしちゃった・・・・・・・司君にはわかったんだね。つくしちゃんの記憶がなくても」
あたしは驚いて何も言えなかった。
「そのあとすっごく怒っちゃって、しばらく口も聞いてもらえなかった・・・・・・何度も謝って、やっと許してくれたけど・・・・・・」
海ちゃんはまたひとつため息をついた。
「・・・・・・あたし、病院に置いてあったあのお弁当、本当はつくしちゃんが作ったって知ってた。
でもあたし負けたくなかったの。司君のことが好きだったから。
病室につくしちゃんが来ると、あの頃の司君はいつもいらいらしてた。
あたしには普通に話してくれてたけどどうでもいいって感じだったもん。でもつくしちゃんが来ると違ってた。
あたしにはいらいらもしないけど何の感情もない目・・・・・・・あたし悔しかった。誰にもそんな目で見られたことなかったから・・・・・・・・」
海ちゃんが立ち上がってあたしを見る。
「つくしちゃん、嘘ついててごめんね・・・・・・・。あたしもう、道明寺家に行かない」
「・・・・・・・え、だって海ちゃん道明寺のこと好きなんでしょ?」
「うん・・・・・・好きだよ。でも、司君はあたしと一緒にいてもあたしを見てくれないの・・・・・・そんなの辛いから・・・・・・・。
きっと記憶が無くても、心のどこかでつくしちゃんのこと覚えてるんだよ」
「・・・・・・・」
「じゃ・・・・・・あたし、帰るねっ」
海ちゃんは少し泣きそうな笑顔でそう言うと、あたしに背を向けて元来た道を振り返らずに歩いて行った。あたしは慌てて彼女に声を掛ける。
「海ちゃんっ・・・・・・・」
あたしの声に振り返る彼女。
「ありがとう、本当のこと言ってくれて・・・・・・・ごめんなさい」
「やだなあ、どうして謝るの?・・・・・・じゃあまたね。つくしちゃん」
太陽のような眩しい笑顔。この笑顔にあたしはいつもかなわないって思う。
あたしは「よし!」とつぶやくと、道明寺家に向かって歩き始めた。
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【焦り】
・・・・・・・・・・まずい。
何がまずいって、俺は何だかんだ言ってすっかり牧野つくしのペースに巻きこまれてる。
昨日の夜のあいつの告白に、俺としたことが少し動揺してしまった。
あのボンビー弁当はこれから一緒に食うことになったのも・・・・・・・ほんと、あいつ強引だな。
でも、あの弁当は何かすげー懐かしい感じがして・・・・・・・
海が作ったって言った弁当食べた時といっしょだ。・・・やっぱ身体が覚えてるんだな。
・・・・・・・・・ま、かといってあいつのことなんて好きになるはずねーけど。この俺様が。
それでも、あいつが笑っているの見るとなんかほっとするんだよな。泣いてるの見るとなんか胸が苦しくなる気がする。
どうしてこんな気持ち感じるんだろう?俺って女に対してこんな感情持ったことあったっけ?
俺の胸に欠けてるものって・・・・・・多分あいつが関係してることに間違いないだろう。
・・・・・・・・・何にしても・・・だ、俺があいつのこと惚れることは無くても、俺は自分の記憶をさっさと思いださねーと。
「おーす、司」
総二郎とあきらが部屋に入ってきた。にやにやして俺を見る。
「昼休みはどうだった?」
「んだよ、おまえらのせーでボンビ弁当食べる羽目になったんだぞっ」
俺はいらいらしてあいつらを睨んだ。
「まあまあ、いーじゃん。普段食べれないものが食べれると思って」
「そーそー。NYに行ったら嫌でも食えなくなるし」
・・・・・・・好き放題言いやがって・・・・
「うわっ、やめろ司っ」
俺は総二郎とあきらを殴った。
「・・・そう言えば類は?」
殴られた頭を痛そうにさすりながら総二郎が言う。
「・・・・・ああ、まだ家で寝てんじゃねーの?来るとは言ってたけど」
「あいつ俺がもうすぐNYに行くってのに、友達がいのねー奴だな」
「牧野はまだ来てねーの?」
あいつの勝ち誇った顔を思い出し、俺はフンと鼻を鳴らした。
「知るか、あんな女」
俺は昼間のことを思い出してまたいらいらしてきた。あんな約束をしてしまったなんて不本意だ。
ドアがノックされて、使用人が類と牧野を連れて来た。・・・・・・なんだこいつら、何で一緒にいるんだ?
「みなさんおそろいで」
訳のわからない気持ちがますます俺をいらいらさせる。
「ああ、もう来ねーかと思ったぜ」
「・・・・・・・何よ。その言い方はないんじゃないの?」
牧野がむっとしたように俺を見る。
「別に」
「ふーん、いいけど」
牧野はつんとすると総二郎たちの話の中に入って行く。
・・・何だかものすごくイライラしてきた・・・。我慢できなくなった俺は牧野に向かって言ってやった。
「おいこらッ牧野っ。昼間の話だけどな、やっぱり俺は行かねーぞっ」
あいつは驚いて俺のほうを見た。
「何で?約束したじゃん」
「いーや、行かねえったら行かねえ」
「変な奴ねえ。一度約束したこと位守りなさいよ。男でしょ?あんた記憶を戻したいんでしょ?」
「うるせえっ。だいたいあまえ、本当に本気で俺のこと好きなのか?」
・・・・・・・なんで俺、こんな言葉が口から出るんだろう?
その言葉に少しあいつは驚いて俺を見つめる。総二郎たちは何だ何だとこっちを見た。
牧野は大きな目をさらに丸くさせると、ニヤリと笑ってこう言いやがった。
「・・・・・・・あんた妬いてんの?」
「うっ、うるせーッ。俺のこと好きって言ったくせに類と一緒に家に来るんじゃねーよッ」
「やっぱり、妬いてんだ」
牧野はぷくくっと顔を赤くして笑うと、部屋を出て行こうとした。
「なんだよ。おまえ、逃げるのかッ」
「ばーか。トイレよ。ト・イ・レっ・・・・・・・何度も言うようだけど、あたしはあんたが好きだって言ってんでしょッ。
・・・・・・・昼休みはあたしあんたが何言っても屋上で待ってるから」
あいつはそれだけ言うとドアを閉めた。開いた口がふさがらない。
隣では総二郎達が感心したように話し合っている。
「・・・・・・いやー、牧野。昔と比べたら信じられない位素直になったなー。俺達の前であんなこと言うなんて・・・。
昔の女版司って感じ。今の状態は牧野がリードしてるな」
「あいつなりに焦ってるんじゃない?タイムリミット近づいて来てるし」
「今なら鉄のパンツもあっさり脱ぐかもよ。・・・・・・つ、司?」
またあいつにバカにされた悔しさが急にこみ上げてきて、俺は好き放題言うあいつらを全員投げ飛ばしたい衝動が沸きあがってくる。
「おまえらーッ!!!」
部屋では3人の男の悲鳴がこだましていた・・・・・・・・・・・・
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【不安】
はあ・・・・・・・・・・
あたしは道明寺家の長い廊下を歩いていた。
それにしても・・・・・・・・・
思い出すと笑える。あいつのあんな赤い顔を見たのは久しぶりだ。ああやって言い合いするなんてなんか昔に戻ったみたいで嬉しい。
急に、約束を取り下げるなんてちょっと驚いたけど。
一緒に来た花沢類に嫉妬したのかな・・・・・・なんちゃって。ははは・・・・・・・・・
こんなこと考える自分に、あたしはちょっと赤くなる。
今日のあたしの心はこの間とは比べ物にならない位、軽くなってる。やっぱり、海ちゃんのことが一段落ついたせいだろう。
海ちゃんと別れて公園を出たあと、花沢類に会った。
「牧野」
「うわっ、花沢類。どうしたの?こんなところで」
「通りかかった時、偶然おまえ見かけたから」
「・・・・・・・まさか、さっきの見てた?」
「ああ、おまえの告白のところからかな」
「!」
聞かれてた、と思うとあたしの顔は急に赤くなった。
「おまえ、やるじゃん。あの女もう来ないんだ。よかったな」
「・・・・・・・もう、ノゾキ聞きなんて趣味悪いよ」
「まあ、いーじゃん。解決したんだから」
花沢類はそう言うと微笑んだ。
「・・・・・・・・ありがとうね。花沢類のおかげだよ。いろいろ、迷惑掛けてごめんね」
「え?俺は別に何もしてないよ。それに、その言葉は司とうまくいってから言ってほしいな」
「うん・・・・・・・」
そう、まだ道明寺があたしのことを思い出したわけじゃない。タイムリミットはあと5日しかないのだから。
少し不安になってあたしが黙ったままでいると、花沢類が言った。
「牧野・・・・・・・・もし、・・・・・・もし、NYに行くまでに司がおまえのこと思い出したらどうするんだ?」
「それは・・・・・・・・あいつがNYに行くのはもう決まっていることだし・・・・・・・母親との約束は破れないから・・・・・・・」
あたしは花沢類の言葉にドキッとした。あいつがあたしに惚れるのは別として、もしもそんな奇跡が本当に起こったら・・・・・・・。
あたしはあいつと一緒にいたいって気持ちを抑えておけるだろうか。
確かに無人島の時はあたしはあいつといれるならどうなってもいいって思ってた。
でも、あれから状況は変わってしまったのだ。
「本当に牧野はそれで後悔しないの?記憶を取り戻したあいつが簡単に納得するなんて思えないね」
「う・・・・・・・・確かにそうかもしれないけど」
あたしは無人島で道明寺と過ごした時間を思い出した。贅沢を絵に描いたようなあいつが「家を出る」とまで宣言したのだ。
「・・・・・・・・でも、まだあいつが記憶を取り戻すかなんてわからないから、そうなったらその時考える・・・・・・・」
「そっか・・・・・・・・。まあ、どうなっても俺達は牧野と司の味方だから。がんばりなよ」
「ありがと・・・・・・・花沢類」
あたしはそう答えるしかなかった。
あたしって考えなしなんだろうか。今はまだその時になっていないから何とでも言えるけど・・・・・・。
あたしは結局自分のことしか考えてなかった。あいつが記憶を取り戻したらどうするかなんて。
じゃあ、そうなったらあたしは・・・・・・・昔のあいつを前に本当に気持ちを抑えていられる?
あたしは頭を激しく振って、次から次へと浮かぶ沢山の不安を振り払おうとした。
考えていても仕方ないっ。今のあたしはあいつのそばにいよう。
あたしは道明寺達がいる部屋に向かった。
部屋に戻ると滋さんと桜子が来ていた。
「つくしーッ、会いたかったーッ」
「ぐえっ・・・」
「滋さん、これ以上やると先輩死んじゃいますよ」
「あはは、ごめんごめん」
まったく、滋さんみたいな細い身体のどこにそんなパワーがあるんだろう。
「今日はですね、道明寺さんに先輩の記憶を思い出してもらう、アーンド先輩を好きになってもらう作戦を考えて来たんですよ」
桜子がにっこり笑って言った。桜子の「作戦」って、あんまりあてにならないような気が・・・・・・・
「青池さんに聞いたんですけど、熱海でのサマースクールで初めて先輩と道明寺さん、キスしたんですって?」
げっ、和也君、桜子に余計なこと言って・・・・・・・・
「初めてのキスって忘れられないもんじゃないですか。だからその場面を再現してみようと思ったんです」
「やーよ、あたしは。だいたいあの頃は道明寺のことなんて何とも思ってなかったんだから。
別にそんなことしなくても、他に方法なんていくらでもあるでしょ?」
桜子が小悪魔的な微笑を作って言う。
「あーら、先輩はそうでも道明寺さんはどうかしらね。それに先輩の言う方法って他に何があるんです?
西門さん達にさっき話したら、えらく乗り気でしたよ」
あたしはうっとなって、何も言い返すことが出来なかった。
・・・・・・あのお祭り好きな二人に話したら、絶対やるに決まってる・・・・・・・
「で明日、道明寺さんのクルーザーを借りてみんなでパーティーすることになったんです。先輩、明日は気合入れてきて下さいね」
「つくし、あたしのドレス貸してあげるからねっ」
にこにこして滋さんが言う。あたしは頭が痛くなった。
最後の日まで、あいつと出来るだけ穏やかに過ごそうと思っていたのに・・・・・・・
あたしは新しい不安に悩まされて、その日はなかなか眠ることが出来なかった。
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