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≪出発の日まであと7日≫

 

【最後の宣戦布告】

 

重大な決心をした日の次の朝って、毎日変わらない道を歩いているはずなのに、

いつもは見えない遠くの方まで見えるような気がするのはなぜだろう?

・・・・・・これはあたしが逃げることをやめたからだ。昨日の決心を道明寺やみんなに話すことを

想像すると緊張するけど・・・・・・あたしは前に進んでみようと思う。

4時間目の授業が終わった後、あたしはいつもF4がいる南館の方へ行った。

 

 

最近4人そろうなんて見なかったのに、なぜか今日はみんないるのが見える。

 

・・・・・・道明寺・・・・・・。

 

あいつは西門さんたちと話しながら少しだけ笑っていた。

・・・・・・・なんでだろう。これだけのことなのに胸が苦しくなるなんて・・・・・・あたしの心臓はやっぱり正直だ。

 

「おう、牧野」

西門さんがあたしに気付いて声を掛けてきた。

「なんか珍しいね。学校にF4全員来てるなんて久しぶりに見た」

「ああ、司に呼ばれたからな」

「え?そうなの?」

「ああ・・・・・・ほら、司」

 

西門さんはそう言うと、道明寺の方に目を向けた。

「ああ・・・・・・」

 

道明寺はあたしを見ると少し言いにくそうに口を開いた。

 

「実はな・・・・・・7日後にNYに行くことが決まった」

 

あたしは「一年だけ」と言った、あいつの母親の顔を思い出した。

「・・・・・・・そうなの?・・・・・・そっか・・・・・・あんた道明寺財閥の跡取りだもんね。

あんな事件もあったし、両親のそばにいる方が安心だろうし・・・」

「ああ・・・・・・で、NYに行ったらしばらく日本に帰って来る事はないかもしれねー」

「・・・・・・うん」

 

気のせいか道明寺は少し苦しそうだ。F3は黙ってあいつを見ている。

「おまえには悪いがまだ記憶を思い出したわけじゃねー。

・・・・・・でも、このままNYに行ったらなくした記憶の手がかりのないとこでは記憶が戻るとは思えない・・・・・・・そこでだ」

 

あいつはそこまで言うと一息ついた。

「俺がNYに行くまでの間、おまえ、道明寺家に来い」

「はあ?」

 

その言葉にあたしはびっくりした。あいつがそんなことを言うなんて。

ううん、むしろあいつのそばにいようと、それを今日は言いたくてここまで来たから。

 

「いや、うちに来るのはおまえだけじゃねー。総二郎たちや滋も呼ぶつもりだ」

「でも・・・・・・あたしが行くと気分がまた悪くなるんじゃない?・・・・・・海ちゃんもいるんでしょ?」

 

あたしはずっと心のどこかで気になっていることを聞いた。

「いーんだよ、俺が来いって言ってんだから来い。海は別に関係ねーよ。

あいつは俺が呼ばないのに勝手に家に来てるだけだ」

「・・・・・・そう、でもほんとに行っていいの?」

「うるせえ、何度も言わすな。だいたいこのまま記憶が戻らねえのは気持ちわりーんだよ」

心なしかあいつの顔が少し赤くなってるように見える。F3はそんなあいつを見て笑った。

 

「・・・と、話がまとまった所で牧野」

西門さんが道明寺の肩を持ってあたしの方を見た。

「俺達、司に協力するから。おまえは今日から司の家に来い」

「・・・・・・・ま、いーけど。・・・・・・あたしも今日は道明寺とみんなに言いたいことがあってここに来たから」

 

花沢類以外の3人が不思議そうにあたしの方を見る。あたしは小さな深呼吸をして口を開いた。

 

「道明寺。あたしね、前にあんたと別れるて言ったの、あれやめる」

「はあ?」

道明寺があっけに取られたような顔になった。あたしはあいつをまっすぐ見つめる。

 

「あたしはあんたに迷惑掛けたくなくて、あの時ああ言ったけど。あたし、自分の気持ちにやっぱり嘘つけないから。

・・・・・・言っとくけどね、これはあんたが昔あたしに教えてくれたんだよ。

『黙って自分の気持ちを押さえるなんて、最初からそんな気持ちなかったも同じだ』って。

だからあたしはあんたがNYに帰るまで一緒にいる。

・・・・・・・だいたいねー、天下の道明寺司があたしごときの記憶無くすなんてどうかしてんじゃないの?いっつもえらそうにしてるくせに」

あいつのこめかみがぴくっと動いた。

 

「なんだと・・・・・・おまえ、もっぺん言ってみろっ」

「何度でも言うわよ。あんたはバカだからあたしの記憶思い出せないの。英才教育受けたんでしょ?

あたしの知ってる道明寺司は今のあんたみたいな奴じゃなかったわよ。ま、バカなところはそのままかしらね」

 

「おまえ・・・・・・さっきからバカバカと連呼しやがって・・・・・・」

 

西門さんと美作さんが青くなってあたしたちを見てる。

「今まで思い出せなかった記憶を、今のあんたが一週間で思い出せるっていうんなら、

あたしは同じ時間でまたあんたがあたしを好きになるようにしてみせる」

 

「おまえ、自分の顔鏡で見たことあんのか?おまえごときをこの俺が好きになるわけないだろ!」

道明寺はあきれた顔であたしを見た。

 

「じゃあんた、一週間で本当に記憶取り戻す自信あんの?」

「あ、あたりめーだろ。俺は道明寺司だぜ。パンピーのおまえとは違うんだよ。だからおまえを好きになるなんてありえないね」

 

「・・・・・・・・わかった」

あたしは小さな声でそう言うと、ポケットの中に入れておいた赤札を取り出してあいつの額にびたっと貼った。

 

「なっ・・・・・・」

「やってみなきゃわかんないじゃない。宣戦布告よっ!あと一週間、あんたとあたしの最後のケンカよ。男なら受けて立ちなさい!」

 

西門さんと美作さんがますます青くなってあたし達を見ている。

あいつは額に張られた赤札を取ってあたしの方へ投げると背中を向けた。

「ばかばかしい、やってられるかよ!」

「ああ、そう、逃げるんだ。天下の道明寺司が」

あたしの言葉にぐっとなるとあいつは怒って低い声で言った。

 

「・・・・・・わかったよ。やってやろーじゃねーか。ま、おまえのことなんて好きになるとは思えねーけど。

俺は記憶をさっさと思い出してNYに行くぜ」

 

「決まりね。今日から覚悟しなさいよ。じゃ、また後でね。西門さん、美作さん、花沢類」

あたしはにやっと笑ってそう言うと、教室に向かって走った。振り返った瞬間に花沢類の笑った顔が見えた気がした。

 

 

 

・・・・・・・・走ってる足が震えてる。心臓がまだドキドキしてる。

あいつに何を言うか考えてたとはいえ、やっぱり緊張した。それにしてもあいつが家に来いなんて言うとは思わなかったけれど。

 

道明寺とあたしの最後のケンカか・・・・・・ふっ、あたしたち出会った頃からケンカばかりだね。

でも、あたしは後悔しない。今まで素直になれなかった分、あいつにあたしの気持ちをぶつけるんだ。

 

あいつの記憶が戻らなくても。

 

あたしのことを少しでも好きにならなくても。

 

 

ひとつ気になることは海ちゃんのことだ。彼女も道明寺のこと好きなのよね・・・・・・。

海ちゃんはあたしに道明寺と付き合ってるって言った。

あたしはずっと道明寺と話してなかったから、彼女はあたしがあいつをあきらめたと思ってるはずだ。

多分、道明寺の家に行ったら会えるだろう。その時にあたしの気持ちを全部話そう。

 

 

 

・・・・・・あたしは雑草のつくし。踏まれても立ち上がる強い植物。

 

これがあたしの運命だっていうのなら、この恋と最後まで戦い抜いてやる。

 

 

 

 

 

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【告白のあと】

 

 

 

昨日の非常階段での宣言どおり、牧野は司に告白した。俺が思っていたのと随分違うけど。

・・・・・・・・やっぱあいつ、あもしれー。さすが牧野つくしだよな。まさか赤札が出てくるとは思わなかった。

ケンカ腰だったからどうなることやらって思ったけれど。

 

司もあいつがまさか記憶を取り戻したいなんて言うとは思わなかった。あいつなりに焦ってるのかもしれない。

・・・・・・そうだよな、司は忘れてしまったとはいえ、あいつが求める答えは本当は目の前にあるのに。

 

牧野が戻った後、司はいらいらしていた。でもなぜか暴れてはいない。ずっと黙りこんだままだ。

あきらや総二郎も牧野の行動にはさすがに面食らったみたいだ。

「・・・・・・牧野、意外とやるな。まさか自分に司を惚れさせるなんて言うとは思わなかったぜ。前はあんなに素直じゃなかったくせに」

あきらが司に聞こえないように小さな声で総二郎に言う。

 

「あいつもそれだけ成長したってことだろ。牧野と出会った頃に戻ったみてーだ。

ま、あの頃と違うことは司が牧野を好きじゃないってことか。反対になったな」

「ああ、それにしても司が切れなかったのが不思議だ。あの頃に戻ったんなら、今頃もっと暴れててもおかしくないのに」

 

司はいらいらしながらも何か考えてるようだ。・・・ま、ちょっと話し掛けようとは思えない雰囲気だけど。

 

突然、司が口を開いた。

「類」

「何?」

「俺、昔あいつに赤札貼られたことあったか?」

 

「病院で貼られたんじゃないの?」

「いや、もっと前だ」

 

何か思い出したんだろうか。

「うん、貼られたよ。俺もあきらも総二郎も」

「あいつらもか?何で俺たちF4に歯向かってた奴が今もこの学園にいるんだよ」

いまいましそうに司が言う。

「・・・・・・さあ、それは牧野だからじゃない?あいつはすごい女だよ。だから司は牧野のこと好きになったんじゃないの?」

「バカ言え。あんな女のこと好きになってたまるか。・・・・・・でもよ、あいつとケンカは前にもしたことあるような気がする。

俺たちってケンカばっかしてたのか?」

「ああ、顔合わすたんびにケンカしてたね」

 

司は複雑な顔をして口を開く。

「……おまえとはどうなんだよ」

「牧野と俺?まあケンカはしないけど、相談にはよくのってるかな」

司は少し驚いたように俺を見る。

「牧野が?類に相談?」

「うん、よく司のこと話してたよ」

「ふーん……」

 

司はそれだけ言うと眉間にしわを寄せて黙りこくった。何を考えてんだろう?

「司」

「なんだよ」

「・・・・・・司はさ、牧野に出会って随分変わったよ。今は記憶を取り戻そうとして焦ってるみたいだけど、

別にあいつと出会う前に戻ったってわけじゃない。牧野のことだけ忘れたんだとしても、今のおまえはあいつがいたからいるんだと思う」

「・・・・・・ずいぶんあいつの肩持つんだな」

「・・・・・・別に。俺も牧野と出会って変わったからじゃない?俺は司とあいつに協力するよ。あくまで中立の立場で」

「類、おまえ・・・・・・・」

 

司が何か言いかけたみたいだけどやめた。何を言おうとしてたのか何となく想像はつく。

 

 

本当に一週間で記憶が戻るかなんてわからないけど、俺は司の野生の勘を信じてる。

牧野に関して幼馴染の俺達がびっくりしたほどの行動を取ってきたこれまでの司を思い出すと、

今回もなんとかなりそうな気がする。牧野も時々信じらんないことするし。

 

ただ、今回のことは今までで一番大きな障害だろう。牧野にとっても、司にとっても。

それにしても、牧野は思い切った行動に出たな。もし司が牧野に惚れたら、記憶が戻らないとしても二人はもとさやに納まるだけだ。

もし、司が記憶を思い出してもハッピーエンドってわけにはいかないだろう。

司の母親が二人のことを認めない限り。

 

 

・・・・・・最悪、司が牧野に惚れないで記憶も戻らないなんてことにはならないで欲しいけど。

 

考えてみたらあの二人に恋人同士の平穏な日々ってあんまりなかった気がする。

司も牧野もただ幸せになりたいだけなのにね。どうしてこの二人は次から次へと障害が多いのかな。

 

 

俺の願いはただひとつ。牧野が幸せに笑ってるところが見たいだけ。

 

 

・・・・・・もちろん、司も応援するけどね。

 

 

 

 

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【最初の夜】

 

 

 

あたしは久しぶりに道明寺家の前に立っていた。改めて見てもあいつの家はやっぱりすごい。

一週間後にはこの家に来ることはこの先ないだろう。

深呼吸して大きなドアを開けると、メイドさん達があたしを迎え入れてくれた。

 

「牧野様、お久しぶりです」

「お元気でしたか?皆さん、もうお部屋でお待ちですよ」

にこにことあたしに話し掛けてくれる。以前と変わらずに。それだけであたしは嬉しくなった。

 

 

「久しぶりだね。つくし」

「・・・・・・センパイ・・・・・・ご無沙汰してます」

久しぶりに見たタマさんは相変わらずだ。

「ぼっちゃんから聞いたよ。NYに行くまでの間、ここでみんなと一緒に過ごすんだって?」

「はい、お世話になります」

「あんたにこんなこと言える立場じゃないけど・・・・・・ぼっちゃんのこと、頼んだよ」

タマさんの言葉に胸が熱くなる。

 

「はい、あたしは何も出来ないかもしれないけれど、道明寺がNYに行くまでそばにいようと決めたんです。

あいつが好きだから。もし、あたしのこと思い出さなくても・・・・・・後悔したくないから」

「・・・・・・・そうかい。その言葉聞いてあたしゃ安心したよ。困ったことがあったらいつでも部屋においで」

「はい!ありがとうございます」

 

 

あたしは一人じゃないって思う。道明寺家に来て少ししぼんでた気持ちが温かいもので満たされたような気がした。

タマさんにお礼を言うと、メイドさんに案内されてみんながいる部屋に向かった。

ドアを開けるとみんなが一斉にあたしの方を見た。

 

「きゃー、つくし久しぶり!」

 

滋さんがあたしに飛びついて来て、思い切り抱きしめてきた。

「ぐえっ、し、しげるさん、苦しい・・・・・・」

「よかった。元気そうで。ニッシーから聞いたよ。あたしつくしのこと応援するからねッ」

「・・・・・・ありがと」

「私も聞きましたよ。先輩もやるじゃないですか。まあ、先輩のレベルで今の道明寺さんが落ちるとは思えないですけど…

私がいろいろ教えてあげますから。まあ、頑張って下さいね」

 

う・・・・・・・桜子、何かむかつく。

「優紀は来てないの?」

「うん、誘ったんだけどね。用事があるみたいで無理だって」

滋さんが残念そうに言った。

「そっか・・・・・・」

 

あたしは優紀の笑顔を思いだした。肩を震わせて西門さんへの恋を貫くことを決めた優紀の強い眼差しが浮かぶ。

あたしはあの時の優紀の気持ちが初めてわかった気がした。

 

 

「ほらほら、感動の再会は後にしてこっち来てみんなで楽しもうぜ」

テーブルには料理やドリンクが用意されている。西門さんはワインを片手に道明寺たちと話していた。

ふとこっちを見た道明寺の視線があたしに突き刺さる。うっ・・・・・・恐い。まるでへびみたいな目だわ。

 

「・・・・・・よお、おまえ昼間俺に言ったこと、忘れてねーだろうな」

道明寺があたしを睨みながら言う。あたしも負けずに言い返す。

「もちろんよ。あんたこそ、忘れてないでしょうね」

「ふっ・・・・・・お手並み拝見といこーじゃねえか」

「言うじゃない・・・・・・・覚悟しなさい。・・・・・・・・とその前に、お腹がすいてちゃ何も出来ないわ。おいしそー。みんな、ほらほら食べよッ」

 

あいつはあたしの言葉にがくっと肩を落とす。

「・・・・・・・なんだそりゃ、おまえ色気より食い気だな」

「うっさいわね。あんた食べ物のありがたみが全然わかってないんじゃない?食べ物が目の前にある時はおいしく食べるものよ。

さあ、あんたにも取ってあげるから食べなよ」

「うっ、うるせー。俺はおまえと違ってがつがつ食べねーんだよっ」

「ふんっ、これなんかすっごくおいしーのに」

「・・・・・・おまえ、うまそーに食うなあ」

「だって、うまいんだもん」

 

些細なことだけど、あたしが食べる姿を昔と同じように見てくれるあいつの言葉が嬉しい。

 

気がつくとみんながあたしたちを笑いながらじっと見ていた。

「やっぱ牧野と司はこーでなきゃ」

「そうそう、そうやってケンカしてなきゃらしくないですよ」

 

みんなの言葉にあたしは顔が赤くなる。・・・・・・・ちょっと状況的に複雑だけど。

 

 

「さー、みんな今夜は楽しもーぜっ」

 

 

 

みんなに感謝しながらあたしは今日初めてのワインを一口、飲み込んだ。

 

 

 

 

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【宴のあと】

 

 

乾杯から3時間後、みんなはもうすっかり出来上がってしまっていた。

久しぶりのパーティーに、あたしもちょっと飲みすぎてしまっていた。ふらふらして身体が熱い。

和也君も滋さんも美作さんにからんじゃって、あーあ、美作さん困ってる。

桜子は・・・・・・・ありゃ、口開けてソファーで寝てる。自称いい女が聞いてあきれるわ。

花沢類は姿が見えないけれど、もう帰っちゃったんだろうか。

美作さんも西門さんもいない。

 

あたしは夜風に当たろうとベランダに出た。風が冷たくて火照った頬に気持ちいい。

ふと横を見ると道明寺がいた。グラスを片手に椅子に腰掛けて夜空を見上げている。

 

「なーにしてんの」

あいつは驚いてあたしの方を見た。

「うおっ、おまえいたのかよ」

そう言うと、またあたしのことを無視して空を見る。あたしは黙ってあいつの隣に座った。

 

「・・・・・・何考えてんの?」

「おまえには関係ねえよ」

「いーじゃない、教えてよケチ」

「・・・・・・・・おまえ、酔ってんな」

 

道明寺があきれたように言う。

 

「きれいな星空ねー。・・・・・・・ねー、あたし昔こうやってあんたと一緒に星見たことあんのよ」

「・・・・・・ああ、天体けんびきょうでだろ?」

「あんた、バカじゃない?天体望遠鏡よ。・・・・・・・・って思い出したの?」

「いや、そんなはっきりではねーけど・・・・・・誰かと土星を見たことは思い出した」

あたしの心臓がドキドキし始めた。

 

「そう・・・・・・・そのあとのことは覚えてる?」

「土星を見たあと?・・・・・・・多分、おまえが前に俺に返したネックレスおまえにやったんじゃねーの?」

「・・・・・・・そうだよ。あんたがあたしにあのネックレスをつけてくれたの。すっごく高そうなものだったからあたしびっくりしたけど、本当は嬉しかったの・・・・・・」

「まあ、おまえみたいにボンビーじゃあのネックレスはびっくりするわな」

 

道明寺がくっと笑う。

 

ああ、久しぶりだ。あたしの目の前で道明寺が笑ってる顔を見るのは。あたしは急に胸が切なくなって目が熱くなった。

「げっ、おまえ泣いてんのかよ。泣いてもなんも出ねーぞ」

「うっ、うるさいわねっ。これはよだれよっ」

「へー、おまえは目からよだれが出んのか。変な奴」

「あんたに言われたくないねッ。たこッ」

 

あーあ、またあたしはこういうかわいくないことを言ってしまう。駄目だと思っててもついつい売り言葉に買い言葉で出ちゃうのよね・・・・・・・はあ。

 

「・・・・・・道明寺」

「なんだよ」

「あたしね・・・・・・・あたしあんたのこと好きだよ」

道明寺は突然の言葉に驚いてあたしを見る。きっとお酒が入っているせいだろう。普段のあたしなら言わない言葉がすらすらと出てくる。

 

「あたしとあんたの出会いは今思い出してもむかつくぐらい最低だったけど。最初はね、こんな奴なんか絶対好きになんかならないって思ってた」

「・・・・・・・てめー、俺にケンカ売ってんのかよ」

「違う・・・・・・・でね、あたしがどんなにあんたにひどいことしても、あんたはあたしを助けてくれて。

気が付いたらあたしのそばにはいつもあんたがいて、あたしはあんたのことが好きになってた」

 

「・・・・・・・」

あいつは黙ったままあたしの話を聞いてくれてる。

「・・・・・・まあ、確かにあんたがあたしだけの記憶を無くしたときはショックだったけど・・・・・・

でもね、いろいろあったけどそのお陰で今までわからなかったことがわかったの」

「・・・・・・・なんだよ」

「記憶がなくなったあんたでも、やっぱりあたしはあんたのことが忘れられなくて、やっぱり好きなんだってこと」

 

今、あたしどんな顔でこんな話をしてるんだろう?あたしってこんなに素直じゃなかったのに。

でもあたしは今、自分に正直な自分がすごく気持ちいい。

 

「・・・・・・昼間のおまえとは別人みてーだな・・・・・・俺は・・・・・・

今はおまえのこと好きかどうかなんてそういう気持ちあるかわかんねーけど、おまえのことは別に嫌じゃねえよ」

 

「そっか・・・・・・・じゃ、あたしにチャンスあるわね」    

 

あたしはにこっと笑うとそばにあったクッションを道明寺に投げた。あたしの言葉に道明寺ははっとしたのか、みるみるうちに赤くなっていく。

 

「うっ、おまえ・・・・・・今ちょっとかわいいと思ったけどやめたっ」

 

「へー、じゃ、ますますあたしの方が有利ね。明日からもがんばろーっ」

「うるせー、俺もとっとと記憶取り戻してやる」

 

二人の声を吸い込んでいく空には、昔と変わらない星空が広がっている。

 

こうして1日目の夜は更けていった。

 

 

 

 

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