俺がいじめたみたいじゃないか
 
 
written by lai
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――わかってる。
 
わかってるつもりだ。牧野が多分、戸惑っていることは。
 
 
でも、俺達が初めて身体を重ねてから、一度もあいつは俺に触れようとしない。
それどころか、俺があいつに触れようとすると、赤くなって『触らないで!』と怒り出す始末。
 
困り果てた俺が姉貴に相談すると、
「女の子はね、いろいろ複雑なのよ。特にあんたみたいなのと一緒にいるとね。」
と言いやがった。
 
 
言ってくれなきゃ、俺はわかんねぇ。
というか、持て余してる気持ち(と身体)をどこにぶつけたらいいのか・・・。
 
『好き』って気持ちだけじゃ、俺は足りねぇんだ。
 
恋人だったら、抱き締めたいって思うのは当たり前。キスより先に進みたい。
でも彼女が嫌だと言ったら、惚れた手前、やっぱり我慢しなきゃって思うけど、
しかし、俺にもそろそろ我慢の限界ってものが・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
今日もいつものように、約束の場所に牧野が来た。
俺のストレスなんてどこ吹く風。片手にはいつもの牧野お手製の弁当を持って。
 
 
弁当なんて食べてられるか。
ただでさえ忙しい俺達にとって、残されている時間は少ない。
何も知らない牧野は俺を見つけると笑顔で近づいて来た。
良心は少しだけ痛むけど、俺だって必死だ。
 
挨拶もそこそこに、牧野は俺の隣に座ると無口なままの俺に感づいた。
 
 
「・・・道明寺、大丈夫?何かあったの?目がすわってるんだけど。」
 
 
誰のせいだ、誰の。
 
 
「ま、いっか。今日もね、早起きして作ってきたんだよ。」
 
 
そう言って弁当を広げる牧野。
『俺は弁当よりお前が食べたい』なんて言ったら、一体どんな顔をするのだろうか。
 
むくむくと沸き起こった衝動を我慢できなくなって、俺は牧野の肩に手を置くと
彼女が振り向いた瞬間を狙ってキスをした。
 
 
「・・・やっ」
 
 
カタンと牧野の手から零れ落ちる弁当。
そんなことはお構いなしに、俺は牧野の身体を引き寄せる。
俺から離れようと伸ばした彼女の腕を、抵抗できないように冷たいコンクリートに繋ぎ止めた。
 
嫌々と顔を背ける彼女。両腕は俺に自由を奪われたままだ。
 
 
 
もう一度、キスを――。
 
 
 
彼女の唇を追いかけるように迫った瞬間、
 
 
「〜〜嫌だって、言ってるでしょっ!」
 
 
ゴン、と目の前で星が散った。
 
 
「・・・痛ぇ。」
 
 
 
 
こいつ、本当に女か。俺に頭突きを食らわせやがった。
思わぬ不意打ちに俺は牧野の両腕を離すと、あいつはそのまま2、3メートル後ずさりした。
顔を見ると、目に涙をいっぱい溜めて俺を睨んでいる。
 
 
 
・・・泣きたいのはこっちの方だ。なのに、何でお前が泣くんだよ。
俺がいじめたみたいじゃないか。
 
 
 
 
 
お互い気まずい雰囲気のまま、しばらく向かい合っていた。
牧野は相変わらず、黙ったまま俺を睨んでいる。
俺は『はぁ』と深い溜息を吐くと口を開いた。
 
 
「・・・お前、何で最近俺を避けんの?」
 
「別に避けてなんか・・・。」
 
「俺が抱き締めようとしたら誤魔化して離れる。キスしようとしたら頭突きする。
・・・ったく、何なんだよ。俺はお前に触れたいのに、いつも逃げようとするしさ。
俺達って付き合ってるんじゃねーの?それとも俺のこと、嫌いになった?」
 
「嫌ってなんか・・・」
 
「じゃ、何でだよ。納得できねぇ。」
 
 
 
真っ直ぐ牧野を見据える。
俺の視線から逃れるように目を逸らして、牧野は俯いたまま、消え入りそうな声で答えた。
 
 
 
「・・・苦しいの。」
 
「・・・何が。聞こえねぇ。」
 
「・・・道明寺はあたしのものじゃないのに、あんたが仕事と言えども他の女の子としゃべって
いるのを想像したり・・・滋さんと話しているのを見ただけでも・・・苦しいの。」
 
 
そう言い切った赤い顔の牧野を見て、俺は少しわかった気がした。
頬が緩みそうになるのを抑えながら、意地悪な俺はあえて深く聞いてみる。
 
 
「それが、何で俺を避ける理由になるんだよ?」
 
「・・・あたし達、忙しくていつも一緒にいられないのに、会うたびにキスしたり抱き締められたりしたら、
・・・あたし、あんたがいないのが我慢できなくて、この先きっと一人じゃいられなくなる。
『道明寺の好きな強いあたし』じゃいられない。・・・不安なの。」
 
「・・・・・・。」
 
「・・・道明寺が、少しでもあたしのそばにいてくれようとしているのはわかってた。
あたしの心の中は、正直・・・い、今でさえ、あんたでいっぱいなの。だから・・・」
 
 
「・・・・・・じゃ俺達、別れる?」
 
 
え、と俺の言葉に牧野が固まった。
そして信じられないことに、やがて彼女はぽろぽろと涙を流し始めたのだ。
俺はやれやれと、牧野のそばに近づくと腰を下ろす。
 
 
「・・・『これ以上傷つきたくない』ってお前は言うんだろ?そんなのはお前のただのエゴだから。
それなら俺達はスパッと別れて、いつも一緒にいられる・・・お前がよく言う『同じ世界の相手』を
探したらいいし。」
 
 
「・・・・・・。」
 
 
「・・・俺だって辛いんだよ。俺達が忙しいのはしょうがないとして。
一緒にいる時にお前に触れられないのは。・・・俺だって男だしさ。
ま、お前にはわかんないかもしれないけど。」
 
 
牧野の頬に付いた涙を手でぬぐう。
 
 
「俺がお前を選んだんだ。いい加減自信持てよ。」
 
 
そう言ってニッと笑う俺を見て、牧野は一瞬キョトンとするといつもの憎まれ口をたたいた。
 
 
「・・・何よ、偉そうに。」
 
「そうそう、その調子。『偉そう』じゃなくて、俺は『偉い』んだよ。
・・・さて、腹も減ったし、弁当どうする?」
 
 
笑いながら俺が指差した先には牧野の弁当が転がっていた。
軽く溜息を吐きながら『あんたのせいだからね』と、牧野は散らばった中身を拾い集めてごみ箱に捨てた。
そして、何かを思いついたように牧野は俺に話し掛けてきた。
 
 
「・・・ねえ、道明寺。」
 
 
『何だよ』と振り向いた瞬間、唇に当たる柔かい感触。
びっくりして牧野を見ると、赤くなった顔を誤魔化すように笑っていた。
 
 
「・・・ごめん。あたし、もうちょっと努力する。
でも、今日みたいに不意打ちはダメだからね。・・・あっ、今の不意打ちか。」
 
 
「・・・俺は大歓迎だけど。」
 
 
「・・・とにかくっ、今日の昼ご飯はあんたのおごりね。」
 
 
 
 
 
 
らしくないことをした、と真っ赤な顔のままよくしゃべる彼女を見て(緊張してる証拠だな)
俺は『ま、いいか』と思う半面、何かと障害の多い彼女との恋愛を思って深い溜息を吐いた。
 
 
 
 
・・・本当のハッピーエンドを迎えるのは、まだまだ先になりそうだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
fin.
 
 
 








ある意味、王道走ってますがお許し下さいm(__)m
この話の中のつくしは、ちょっと『乙女モード』入ってます。

どう考えても、道明寺は天然いじめっ子キャラですよね。・・・(lai)