<想い> 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ばいばい! 道明寺」

 

「ああ、また明日な」

 

 

いつものように交わすさよならの言葉。だけどあたしは時々すごく不安になる。

いつか前みたいに突然、あいつに会えない『明日』という日が来るような気がして――――――――――――――――――。

 

 

相変わらずよく喧嘩はするけれど、道明寺は何だかんだいって優しい。

ううん、以前より優しくなったと思う。

あたしのことを『色気がない』だとか、『かわいくねえ』とかいろいろ言うけれど…

あたしを見るあいつの視線に気付く度に、あたしはドキッとさせられる。

 

 

ああ、やっぱりあたしは道明寺のことが好きなんだなあって。そしてあいつも…あたしのことを好きでいてくれるんだって。

 

 

 

 

何度キスをしても、抱き締め合っても……

暗闇から『誰か』があたし達をつなぐ糸をいつ切ろうか、ずっとそばで見てる気がして…あたしは何だか落ち着かない。

 

……幸せなんだけどね。ホントは不安。

 

これは贅沢な悩みなんだってわかっていても、心のどこかでずっと怯えているあたしがいる。

 

 

 

でも…

 

道明寺と出会った時から、きっとあたしの運命は決まってたんだ。

 

…だから、あたしは戦う。

 

二人で心の底から笑える日がいつか来ることを信じて前に進むしかない。

 

かわいくなくてもいい。あたしがあたしらしければ。

 

そんなあたしをあいつは好きになってくれたから―――――――――――――。

 

 

 

目の前の道は決して平坦ではないけれど…戦う。これが本来の『牧野つくし』だ。

 

あたし、頑張るから。

 

だから一緒に幸せになろうね。道明寺――――――――――――――――――。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

―――――――――この手で何度あいつを抱きしめただろうか――――――――。

 

 

 

今は幸せでしょうがないはずなのに、何故か俺は不安になる時がある。

 

そんな時いつも思い出すのは記憶を無くしていた時の、どうしようもなく冷えた気持ち。

指先まで冷たくて…生きているという実感が湧かない。

 

 

 

そういう時は目を閉じて牧野の顔を思い出す。

 

怒った顔、照れて赤くなった顔、泣いた顔…

 

 

―――――――――――――笑顔。

 

 

 

思い出す度、会いたくなってしょうがなくなる。

喧嘩をしても…腹は立つけれど仲直りしたいって思う。

泣いていたら守ってやりたい。

笑っているとホッとする。

 

そばにいるとキスしたくなる。

 

手をつないだらそのまま引き寄せて抱きしめて……あいつを……

 

 

 

 

 

 

そばにいても、ふとした拍子にあいつがいなくなりそうで…




あいつの瞳に俺が映っていても、気持ちは俺の方に向いているのかって…

時々確認するようにあいつを強く抱きしめたくなるんだ。

 

 

細くて小さな身体…でも俺にはないモノを牧野は沢山持ってる。

 

 

お金だけじゃどうにもならないことだってあるんだと教えてくれた。

今まで『道明寺』に守られてきたくせに、これほど自分が『道明寺』であることが疎ましく思うなんて初めてだ。

 

生まれて初めて何かを心から欲しいと思った。

 

そして大切にしたいと思う。

 

 

冷めてしまった心が自分をどう突き動かすかを知っているからこそ、

牧野を忘れたことが自分にとってどんなに大切なことだったのか今ならわかるから…。

 

 

 

 

掴んだ手をもう離すつもりはない。たとえこの先何が起こっても。

 

牧野しか俺のこと、幸せにはできないから―――――――――――――。

 

 

だからきっとどうにかなるし、どうにかするさ。

 

 

 牧野を泣かせないように…守るから。



 

 

 

だから今だけはずっと一緒にいようぜ。

 

 

 

 

 

 

fin.