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PIECES OF A DREAM

 

 

 

 

 

「キャー、西門くんじゃない。元気?」

 

いつもならあきら達と足を運ぶクラブに今日は珍しく一人で行くと、女が声を掛けて来た。

 

「ああ、マリコちゃんは元気?」

 

―――うぜぇ。

 

とりあえずにっこり笑って返事をする。

「元気よ〜、そうだ西門くん、これから2人でどこか行かない?」

 

―――でも、いつものことだ…。

 

普段なら女と一緒にこのまま外に出るのに、今日は大事な約束があった。

 

「…西門くん?」

「ごめん、今日はこれから用事があるんだ。また今度ね」

 

俺はそう言うと、店を出て最初につかまえたタクシーに乗り込んだ。

 

「お客さん、どちらまで?」

「……シノダビルまで」

 

思わず口から出た行き先はかつての約束の場所。

 

―――デタラメな夢を 好き勝手ばらまいて オモチャにしていつまでも遊んでいた

    「見え透いた明日が一番くだらない」とはしゃぎながら 気ままに生きたあの頃

 

カーラジオから少し前に流行った歌が流れてきた。

「おっと…お客さん、ラジオつけたままでもいいです?」

 

タクシーの運転手が後ろを振り向いて俺に聞く。 

「別にいいですよ」

「…それじゃ、シノダビルまでね」

 

 

―――Ah…せめてボクたちが一度背を向けたら 二度とは戻れない場所なんだと知ってたら

 

 

ボーっとした頭にボーカルの声が心地良く流れ込んでくる。

何で俺はあの場所へ行こうとしているんだろう……。サラのいるあの場所へ。

もうあの頃の2人には戻れない予感がするのに。

 

 

―――ハンパな夢のひとカケラが不意に誰かを傷つけていく 臆病なボクたちは目を閉じて離れた

    キミに言いそびれたことが ポケットの中にまだ残ってる 指先に触れては感じる懐かしい痛みが

 

 

 

自分を癒すための女と過ごす意味のない時間が、自分を苦しめることになるなんて思いもしなかった。

あの時、サラの元へ走っていたら…俺は……大切なものを失わずに済んだのだろう。

 

 

―――何かに近付くために歩いたのか 遠ざかるためにただ歩いていくのか

    Ah…あの時のこともあれからのことも 間違ってなかったのか ホントはまだ知らない

 

 

 

過去へ行くのか、未来へいくのか……答えはきっとあるはずだ。

じゃ、俺はどうしたいんだ?サラと会って……

 

 

―――強がるわけじゃないんだけど 立ち止まっちゃいけない気はしてる 思い出のボクたちを責める気はないから

    キミが置いてったコトバだけポケットの中で握りしめた 手の平になじんだ感触を 忘れたくないから

    あれからキミはどう生きてるの?変わったのかな…キミが最後に詰めた 夢のカケラたちは今どうしてる?ボクは…

    二度とは戻れない時代なんだと気付いた

 

 

 

……俺の背中を押して走らせてくれた優紀ちゃんは?

あれからずっと胸の中で引っ掛かかっているぼんやりとした何かが、形にならないままずっとくすぶっている。

 

あともう少しでそれがわかる。

 

 

 

「……お客さん、着きましたよ」

 

タクシーから降りて俺はふと白く澄んだ夜明け前の空を仰ぐ。東の空が少しだけ明るくなっている。

さぁ、これからどこに向かって走って行くのか…

 

白い息を吐きながら、目の前にそびえるビルを見上げる。

このビルにまた上るなんて思いもしなかった。それもサラと……

 

 

『西門さん、あっちの方向ですっ』

 

 

不意にビルを探して俺を連れてきてくれた、優紀ちゃんの必死の顔が思い浮かんだ。

 

――――『一期一会』。

 

もう使わなくなった言葉だけど、自分が壊したチャンスがまた戻ってくるなんて思いもしなかった。

…優紀ちゃん、もう無駄にはしないよ。

 

 

「さぁ、行きますか」

 

俺はそうつぶやくと、入口の扉を開けた。

 

 

 

fin.






Words:『PIECES OF A DREAM』/CHEMISTRY

西門が再びサラと約束のビルに上るまでのお話でした。