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**パレード

 

サクラが舞い散る中、道明寺は飛び立った。
二人で幸せになる為の第一歩を踏み出す為に。


恋はお祭り騒ぎみたいで、その高揚した騒ぎの中でケンカと仲直りと甘い時間を体験してきた。
あたしの心が道明寺を受け入れた時点で、恋のパレードは始まってたんだ。
パレードの最中は、楽しくて仕方なくて。
でも、物事には全て終わりがある。



ねえ、祭りの後には何が残ったんだろうね?
パレードが過ぎた後、一人取り残されたあたしの足元には、
涙に濡れて、グチャグチャに踏み散らかされた薄紅の花びら。


楽しかった分だけアイツのいない時間が辛かった。
自分でも驚くほど道明寺を好きになってた事に、今更ながらに驚いて、そして後悔した。


報われないなら。逢えないのなら。こんな思いをするのなら。
・・・好きにならなきゃ良かったのに。




それ以来、満開に咲いてた花が咲くことは無かった。





そうして、花の咲かない春を3度越えた。

 

 

**********

 


『4』という数字は嫌い。


縁起が悪いという世間一般的な嫌悪感はもちろんだけど、どうしてもアイツを思い出してしまう。



  ― 4年後、必ず迎えに行きます ―




メディアの前でアイツは言った。 別にそんな大げさな約束、いらなかった。
あれはアイツの確固たる自信の表れだったんだろうけど。
それよりもただ一度の指きりでいいから、「必ずかなう」約束が欲しかった。


パレードには早すぎたのだろうか。
あまりに慌しく、見栄えだけ取り繕って本番を迎えてしまったから?
大切な想い出を詰め込んで、骨組みもネジもしっかり固く繋いだはずだったのに。
勢いに任せて通り過ぎたあと、些細なパーツを落としていることに気がつかなかった。


桜の花びらに紛れて風とともに吹き飛んでしまったそれを、今頃探しても見つかるはずもなく。



 ―だから失くさないさないようにちゃんと見ていなさいって言ったのに。



子どもの頃、何度も母親に言われた言葉を思い出す。


『失くしてしまったから、新しいものを送って。』



遠いアイツへと繋がる、見上げたくない空を目に移し、
春霞の空の色をしたハガキにそんな無責任なことを書いてこの思いを吐き出したら、
あたしの心の中のサクラはまた満開に咲くのだろうか・・・・。



後悔ばかりの4度目の春、そんなあたしの手元に空色の封筒が届いた。



************




見慣れた筆跡から、誰が書いたものかすぐわかった。

期待と不安が入り混じった複雑な気持ちで、手の震えを抑えるようにして
あたしはゆっくり封を開ける。


 

          牧野へ―――

 

                待たせてごめん。
 
             
                もうすぐ帰る。    




                          ――――司





「・・・ホントに、待ちくたびれたよ。」


たった4行のアイツらしい短い手紙だったけれど、あたしには十分だった。

道明寺との4年越しの約束の重さ。

あたしはアイツを幸せにする決心をした時から、覚悟していたはずなのに。



・・・手紙を見た瞬間から涙がこぼれた。
あたしはアイツが本当に好きで、大好きで。

でも会えなくて寂しくて、こんな恋を選んでしまった自分に腹が立って。


自分の中で道明寺の存在が消せないほど大きくなっていることに改めて気付いて、
そして涙が止まらなかった。


4年前に取り残されたあたしの行き場のない想いは、
未来のアイツに受け止められる保証がない中で、ゆっくり色あせつつあった。



でも、たった4行の手紙であたしはわかってしまったのだ。



楽しくて仕方がなかったあの時を、泣いたり笑ったり忙しさに目が回りそうだったあの日々に、
もう一度戻ってやり直したいと思っている自分がいることを。



なくした時間は、同じように繰り返すことなんてできないのに。




自分の世界で歩き始めたアイツ。

アイツとの再会後を想像して楽しんでいた子供のあたし。


あたしは確かに、アイツのあたしへの気持ちの中にどっぷりつかって甘えてしまっていたのだ。
抜け出せないほどに。 






そんな時、花沢類から電話があった。







***********





「ねえ、泣いてる?」


開口一番、彼はそう言った。そのくせ、決して慌てた風ではなく、いつもと同じ穏やかなトーンで。



「どして?」

「うーん、なんとなくそんな気がしたから」

「エスパーかよ・・・」



本当に泣いていたから、少しきまりが悪くて言葉を濁すと、


「ほら、やっぱり泣いてた」


携帯片手にカンカンと階段を上りながら、薄茶のビー玉の花沢類は言った。


「なんで、ここに?」

「散歩してたらさ、牧野ん家の近くだって気づいたから。粗茶でもご馳走になろうかと思って」

「あのね。お客が粗茶なんて言わないの」

「くすっ。それで、ちょうどアンタが帰ってきたところだったから、
声かけようと思ったんだけどさ、凄い勢いで封筒開けてるから声かけれなくて。
もしかして、司からの手紙なのかなって」

「やっぱりエスパーじゃん」

「アンタの行動が解りやすすぎなの。司、何だって?」

「もうすぐ帰る。って」

「そか」

「うん」

「よかったな」

「うん」



ポンポンと大きな手のひらが、あたしの頭上に置かれて。

道明寺がいない4年の間、どれだけ、この人に支えて貰ったのか。
その存在の大きさと暖かさに、ただただ感謝するだけだった。


「ね、粗茶でも飲んでく?」

「うん」


ドアを開けて、部屋に入ろうとしたあたし達に、



「俺にも飲ませろよ。粗茶」




懐かしい声。




アパートの錆びた手すりに寄りかかるようにして、真っ直ぐにあたしを見つめる瞳。







道明寺が、帰ってきた。









**********





「・・・・・あ、あんたいつ?あたし、今、手紙読んだばかりなのに・・・。」


「手紙が着くのに1週間はかかるだろうからな。
それまでに全部片付けちまおうと思って時間稼ぎしといた。
出来りゃ、いきなり現れてお前オドかしてやるつもりだったんだけど。」


もたれていた手すりから長身の身体を起こすと、ドアの前のあたし達にゆっくりと近づいて来る。

真っ直ぐにあたしを見つめていた視線が隣りに立つ花沢類に移り、
それは“見つめる”視線から“睨みつける”視線へと変わった。


「相変わらず油断ならねえ奴だな、類。ずっと牧野の周りウロついてたんだろうが。
お前、ジャマ。さっさと帰れ。」

「ちょっと道明寺、そんな言い方・・・・・っ。」



花沢類に対して何の思いやりもない言葉にカチンときたあたしは、
睨み合う二人の間に花沢類を庇うようにして立った。



再会の喜びの熱が一気に冷めていく・・・・。



この4年、彼がどれだけあたしを支えていてくれたか、道明寺は分かっちゃいない。
あんたの『迎えに行く』という言葉だけしか頼るもののなかったあたしを、
途切れそうになるあんたへの想いを手放そうとしていたあたしを、
その優しさで留まらせてくれた花沢類に、あんたはそんな言葉を投げつけるの?



「あたしはあんたなんか・・・・。」

「司、片付いたの?」



拒絶の言葉を口にしようとしたあたしを、花沢類の言葉が遮る。
と同時に、その両腕に後ろからフワッと抱かえ込まれ、驚きで身体を強張らせてしまった。

そんなあたし達の様子に動じること無く、道明寺は真っ直ぐな視線を花沢類に向けたまま、
「あぁ。」と返事を返す。



「全部?」

「全部」

「そ。」



そう言って一言だけ相槌を返した花沢類は、スッとあたしから手を引くと、道明寺に向かってトンと背中を押した。
その勢いのまま道明寺の腕にとらえられたあたしに横目で優しい眼差しを向けたかと思うと、

「牧野、粗茶、また今度ご馳走になりに来るよ。」

と手を振って階段を降りて行こうとした。





「・・・・・類。」

「何?」

「サンキュ。」

「・・・・司にお礼言われちゃったよ。」







道明寺とそんな短いやり取りだけを交わして。






**********




悲しいような、ほっとしたような複雑な気持ち。

別れ際に微かに花沢類が見せた寂しそうな笑顔は、あたしの胸に確かに何かを残した。


帰っていった花沢類を見届けた後、道明寺はあたしを後ろから両腕で抱えたまま、ぼそりと言った。


「・・・追いかけたいか?」


彼の意外な一言に、あたしは胸を突かれたような思いがして何も言えなかった。
黙ったままのあたしを、道明寺は包み込むようにして抱き締める。


「・・・4年間、待たせてごめん。」


あたしの張り詰めた気持ちを壊すのに、その言葉は十分だった。
小さな子どものように、あたしは道明寺の胸の中で泣き続けた。


こんなに泣いたのは久しぶりかもしれない。
道明寺の大きな手で何度も優しく頭を撫でられながら、
4年間、会えなかった辛さを涙に変えてひたすら泣き続けた。
そして、わがままなあたしを支えてくれた花沢類の気持ちを思うと余計に涙が止まらなかった。


ぷちん、とあたしの中で緊張の糸が切れた。





・・・・・・で、やっぱりあたしらしいというか、泣き疲れてそのまま眠ってしまったらしい。


目を腫らして眠っているあたしを、彼は呆れながら自分の家に連れて行ったのだった。






4年ぶりの道明寺家へ。






*************




とても懐かしい香りがする。
その香りは、あたしの中の、悲しくて、辛くて、苦しくて、でもとても幸福な記憶を呼び覚ます。

目を覚ますと、道明寺が隣に眠っていた。



「ヤダ・・・ちょっと」



驚いたのと恥ずかしいのとで、慌てて離れようと思ったのに、
まるで、二度と離すものかという様にシッカリと回された腕から逃れる術はなくて。

久々に間近で見る道明寺の顔に、胸が苦しくなるほどドキドキが止まらない。




―好きにならなきゃ良かった―



そう思うのは、取り返しが付かないほど好きになってしまったから。
あたしは、道明寺が凄く好きで。大好きで。会いたくて、ずっと待ってた。
息を吸い込むと、道明寺の香りがする。

この4年の間、街で偶然同じ香水を嗅いでしまった事が何度もあった。
その度にコイツを思い出して、その後どうしようもなく一人ぼっちだと感じてしまうから、
一番嗅ぎたくない香りだった。
もう一度息を吸い込んでみる。あたしの額にかかる寝息がくすぐったくて、嘘みたいに幸せで、
暖かな腕の中で、何度も深呼吸をしてみた。


ねえ、帰ってきて早々、誤解しないでよね。


さっき花沢類に抱きしめられてドキドキしてしまった事は認めるけど。
こんな風にね、「起きてよ、道明寺」 キスしたくなるのは、アンタだけなんだから。




あたしは、道明寺の薄く開いた唇を塞ぐように、そっと唇を合わせた。


4年分の『好き』を込めて。








**********






「・・・・・んっ、んん、んんんーっ。」




あたしから塞いだはずのキスだったのに、目を覚ました道明寺によって一気に形勢逆転されてしまい、
熱のこもったキスが口唇から頬、瞼、額へと降り注いだ。
うなじに感じる熱い吐息に緊張から身体が固くなってしまう。

そんなあたしからふと顔を離すと、道明寺は4年前と変わらない優しい瞳であたしを見つめていた。
至近距離のその瞳に飲まれそうになってしまったけれど、どうしても胸に引っかかることを聞いておきたくてあたしは口を開いた。



「・・・・ねぇ道明寺、花沢類が言ってた『全部』って何だったの?」

「あぁ、あれか。俺がお袋から任されたデカイ契約を成立させることと・・・・。」

「・・・・・お見合い?」



一瞬口篭もった言葉を引き継ぐように発したあたしの一言に、
あたしを見つめていた道明寺の瞳が揺ぐ。



「・・・・・知ってたのか。」

「ん・・・・。みんながあたしの耳に入れないようにしてることがあるな、と思って。
いくらあたしが新聞もテレビも見ないからって、本屋や電車の中吊りくらい目にするもん。
でも、あんたからは何にも連絡無いし、もうあたしのことはいいのかな、って・・・・。」

「そっか・・・・。でも全部片付けてきた。不安にさせちまって、悪かったな。」



そう言って道明寺は相変わらずの長い睫毛とともに瞼を伏せた。
そんな彼の頬の片方をベッドに身体を横たえたままの格好で軽くつねり、
あたしは気落ちしてしまったであろうその心を浮上させるべく笑顔を向けた。

「そーだよ。もうちょっと遅かったら、あたしあんたのこと諦めてたよ・・・・。
それにしても花沢類やあたしに、あんたがお礼や謝罪の言葉を口にするなんてね。」

「てめぇ、こっちが素直な態度に出てやってんのに・・・・。」


以前ならそんなセリフの後はこめかみに青筋を浮かべて拳が飛んできたものだったのに、
道明寺からの制裁は再び繰り返されるキスの嵐だった。




どこにも行かないで。もう離れるのはいや―。





昔思った同じ言葉を心の中で呟きながら、あたしはその甘い制裁に酔いしれていた。


道明寺に今のあたしの気持ちが伝わるよう願って。








**********






花沢類に慰められて少しずつ癒されてきた喪失感が、一気に幸せな気持ちで満たされる。

 

「・・・好き・・・」

 

独り言のように小さな声で呟いた言葉も、いつの間にかキスで絡め取られて、
あたしは久しぶりの幸福感に胸がいっぱいで泣きそうになった。

何十回目かのキスの後、ふと道明寺が体を起こしてあたしの両手を取って立ち上がらせた。
そしてあたしはそのまま手を引かれて窓際の方に連れて行かれる。



「外、見てみろよ。」

「え?」


道明寺がNYへ旅立った日、言われた通り見上げた空と同じ春の青空が広がっている。
開かれた窓から春の風があたしの頬を優しく撫でる。

彼が指差した先に浮かぶのは、飛行機雲で描かれた『Marry Me』(結婚して)の文字。




「・・・返事は?」




驚きで何も言えないでいるあたしに、「してやったり」と嬉しそうな顔で笑う彼。
その自信はどこから来るのか、あたしが『Yes』と言うのを確信しているかのように聞いてくる。



・・・可愛くない。



でも、この男のこういうところがやっぱりあたしは好きなのだ。
自分勝手で気分屋で、憎たらしいけれど愛しくて。

あたしが生まれて初めて唯一幸せにしたいと思った男。 返事の代わりにキスで答える。

そんなあたしの行動に驚いた顔をした道明寺があたしは愛しくてたまらなかった。






そしてまたあたし達の目の前に生まれる、新たな道。


一度終わったはずのパレードが、楽しかった時間の始まりを告げる音が、
どこかで聞こえた気がした。




2人を祝福するかのように、桜の花びらが舞い落ちる。
あたし達は今まで埋められなかった想いと一緒にまたキスを重ねた。








あたし達の本当のパレードは、これから始まる。









fin.



そして未来へ。






『FF*Festival2』で連載したリレー小説のお話です。タイトルはいちさんが考えて下さいました。さすがです。
リレーの順番は、いちさん⇒セーラーさん⇒LAIで編集しています。私的にお気に入りなのが、
冒頭のいちさん、セーラーさんの書き出し。詩的で美しいです〜(涙)たくさんの方からご感想を頂き、嬉しかったです。
いちさん、セーラーさん、お忙しい中ご参加ありがとうございました!感謝感激です!!またいつかご一緒したいです。(2005/04/19)