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『初恋は実らない。』


なんて、誰が言った言葉だったか。

若すぎる母親を絶えず周りにからかわれていたせいか、年下の女とか、同級生の女には、全く興味が湧かなかった。
そしてそんな俺が初めて好きになったのは、美作家の使用人の一人だった『ナツミ』さんだった。

 

 

 

***アネモネの恋***

 

 

 

 

当時、俺は13歳。
ナツミさんは高校卒業したばかりだったが、ガキだった俺にはわからない複雑な事情があったらしい。

長い髪を一つに束ねて、いつも笑顔だったナツミさん。
若作り過ぎるうちの母親と比べて、年の割にしっかりしていて、俺にとって静の次に姉のように接してくれた存在だった。

部屋の花瓶には、毎日彼女が選んだ花が一輪活けてあって。
今日はどんな花にしようか、と楽しそうな彼女を見ていると、俺も少し嬉しくなった。

 

・・・そして、俺はいつの間にか、そんな彼女のことを好きになっていた。
ガキだった俺なりに一生懸命に彼女の気を引こうとして・・・
その度に彼女は困ったような、でも嬉しそうな表情をしていたっけ。

 

「あきらさん。」

と俺のことを呼ぶ彼女。

「ナツさん。」

と呼ぶ俺。

 

使用人と雇い主の息子。

 


今から考えればバカバカしい程、俺はガキだった。
でも、小さい頃から甘やかされて育ったこともあって、ナツさんを手に入れることも不思議と「不可能じゃない」という思い込みがあった。


そしてとうとう、彼女と初めて出会った季節がまたやって来た頃、俺達は恋人同士になった。


ナツさんが好きだった。
長い髪に指を絡ませて、寝ている彼女の寝顔を見ることが好きだった。
時折見せる暗い表情も気になってはいたが、俺はわざと気付かずにいた。



重ねた身体から伝わる体温も、口唇から漏れる切ない吐息も、
俺を抱き締めてくれる柔かい腕も、俺だけに見せてくれる笑顔も、

・・・全部全部好きだったのに・・・。

 



ある日、彼女は突然帰らぬ人になった。
それはあっけなく、暴走した車の犠牲になって。

 


その知らせを聞いた俺は、そのままぶっ倒れたらしい。
気が付けば、ベットに寝かされていた。

 

 

白く高い天井を見上げて、一人きり。




――もう彼女は帰って来ない。



泣いたって何も変わらないけれど、何だかナツさんが心配してまた戻って来てくれるような気がして、
涙はずっと止まらなかった。


ガキだった俺は、彼女を守ることができなかった。
そして、彼女はもういないということを、世話をする人がいなくて枯れてしまった花を見て、
彼女を思い出してまた泣いた。

 

 


あれから俺の部屋にはいつも同じ花が一輪、飾られている。
彼女が事故に遭った朝に飾ってくれた花だ。

 


アネモネの花。花言葉は『はかない恋』。

 

 

彼女は俺との恋をずっと悩んでいたのかもしれない。
でも、ガキだった俺は何も彼女にしてあげられなかった。
だから、恋人と育ちが違うことで苦労している牧野を見ると、いつも彼女を思い出すのだ。

 


どうか、幸せになって欲しい。
牧野にも、そして、司にも。

 


羨ましくもあり、妬ましくもある。
たった一人の人を追いかけていた昔の俺。
そして、自分の幸せのために周りを巻き込む司。




そんな恋も悪くはないと、ふと、アネモネの花を見て思った。

 

 



fin.