ダイヤとピアスとわがままな君と


 


 

約束の4年目。俺は約束通りあいつの目の前に立っていた。
ざわざわ騒がれてるみたいだがお構いなし。それに対してお前は、咥えていた箸をぽとりと落とし弁当箱をひっくり返した。重力にしたがって落ちる弁当の中身を
「もったいなねぇ。」
「あんたの口からもったいない!」
別に驚くようなことでもねぇだろうが、再会した一言目がこれだ。感動も色気もまったくねぇな。
強引に押し込めた英徳の大学部。俺が入学金も学費も4年間分きっちり支払ったため、返金できないからもったいないと通わせた。『もったいない』俺にとっては魔法のキ−ワ−ド、この言葉に牧野は反応する。俺の人生に必要なかったものを教えてくれた牧野。その一つが『もったいない』、教わった多くのものの上位に入るだろう。一番はもちろん、欲しくてたまらなかったものだが誰も与えてはくれず必要ないと背けていたもの。
右手を差し伸べた。当然その手を取るだろ。
「迎えに来た、待っていてくれたんだろ。」
「――― なんであんたはそう突然なのよ。」
突然だと?毎年新しいカレンダ−に最初にすることは、卒業したこの日に赤く丸をつけることだった。どんなにこの日を待ちわびていたと思っているんだよ。
潤む瞳、薄化粧に艶やかなル−ジュ、耳に片割れのピアス。一組のピアスを俺と二人分け合った。いつでもどこにいてもお互いを感じ取れるように。いつまでも離れていらんねぇだろ?元々ひとつのモノだから。
「迎えに来た、文句は聞かねぇ。」
いつまでも上がらない手を待ちきれず、相変わらず軽い体を持ち上げちっとも閉まらない口を塞いだ。
「文句は聞かねぇって言ってんだろが。」
真っ赤になってそれでも閉まらない口にもう一度。
「信じられない。あんたには常識ってものがないの?こんな人前で。」
「向こうじゃ普通。」
「ここは日本。普通しない。」
「ずっとその口を閉じさせないといけないのか?願ってもないが。」
余裕綽々しらっと言ってのける。ぐうの音も出ないところで、脚を進めた。
「ちょっ、カバン。お弁当も片付けなきゃ。」
「五月蝿い。そこのお前、そのカバンよこせ。ついでにそこ片付けておけ。」
「バカのクセに漢字でうるさいって言った。あんたそれに何様よ偉そうに。ちょっとそこのあんたも言われたからって大人しく言いなりになってんじゃないわよ。」
「道明寺司様。文句は聞かねぇって言ってんだろうが、何度も言わすな。」
口を塞ぐのは何度目だ?今度はゆっくりと味わって。



結局移動の車の中まで口が塞がることはなく、何で俺はこんなめんどくさいヤツに惚れちまったんだろう。
拉致っただの誘拐だの人聞きが悪いったらありゃしねぇ。向かえに座るの西田のニヤケタ顔がムカツク。
ばばぁの右腕の西田は、今回俺が日本に戻るってことで御目付役として配置された。
流石にばばぁのすぐ傍にいただけあって、口でも腕っ節でも敵わなく仕事もそつなくこなすところが嫌味なヤツだ。帰国してすぐの仕事場への途中だったが、無理を言ってこいつを連れ 去り に遠回りさせたんだが文句も言わねぇところが怪しい、とにかくだ西田は嫌味なヤツなんだ。八つ当たりだと解かっちゃいるが
「西田、そのニヤケタ面どうにかしろ。」
「微笑ましいと拝見させて頂いただけですけど。
そうでした、すっかり仕事のことを忘れていました私としたことが。」
ははっはと乾いた笑いがムカツクったらありゃしねぇ。『社長に個人的に頼まれました仕事でしたので』と前置きをしてから、
「御二人への伝言です。司様が公共の電波を使って発表してしまったため、不本意ですが公約違反とならないようにしていただきます。忘れてはいないでしょうが、『迎えにいく』となればそれなりに覚悟のことでしょう。
おわかりですよね。」
ね−ちゃん経由で渡されたソレは、そんな意味なのか。ばばぁは牧野のこととなると、まどろっこしくくっだらねぇプライドに縛られて素直じゃねぇ。こいつもばばぁ絡みじゃ素直に受け取れないから、どこかに落とし穴があるとさらに騒ぎ始めた。二人とも俺みたいに広い心で受け止められねぇのかね。
「なっ、なによ。」
身振り手振り大騒ぎする左手をとっ捕まえ無言の圧力、無色透明とも七色にともとれる光を閉じ込めた石っころを乗っけたソレをビロ−ドの小箱から取り出した。
息を飲み込む音。
俺のか?それともお前の?
「俺と結婚して。」
呟き指輪をはめ終えた。
カシャッ、カシャッ、フラッシュをたかれてここが何処でどんな状況か――ちっ、西田に弱みを握られた気がする。
「社長に報告しなくてはなりませんからね。」
あっけに撮られる俺たちの証拠写真を事務的に何枚も撮り終えていた。気を取り戻した牧野までもが
「金持ちってどうしていきなりで人の気持ちを考えないのよ。結婚なんて冗談じゃない、あたしまだ学生だよ。まだまだやりたい事たくさんあるし、いきなりけっ結婚なんて無理言わないでよ。」
「確かにいきなりで直接過ぎましたね。もっとこう女性受けする甘いロマンチックでないといけませんね、司様。」
「ロマンチックって、俺が?こいつに?バラを贈ったって感動しないこいつにか?」
「極端すぎるのよ。花束くらいがちょうどいいのに、息苦しいほど贈ってくるあんたが悪い。東京中のバラ買い占めて感動する前にあきれるっちゅうねん。感動するには1本でもいいのよ。」
「はん、そんな貧乏くせぇことできっかよ。もったいづけてねぇで俺のものになれよ。」
常識の範囲って、車内で暴れまわるお前よりは十分俺は常識人間だと思うぞ。運転席と区切られているこの車でよかったよ。ちっちぇ車だったら今頃命はねえな。
「まっ、結婚はさておき婚約ということでお願いします。」
どこにおいていくんだ?婚約=結婚だろうが!牧野もわかって待っていたんじゃないのか――!!
「返す返す返す、こんなもの受け取ったらあたしの人生めちゃくちゃだわ。」
「てめぇ、指から抜くな、人生めちゃくちゃってそりゃねぇだろがぁ。どうしても受け取れないなら、ばばぁに直接返せよな。俺は受けとらねぇからな。」
西田も管轄外ですから当事者同士でとやんわり断りを入れる。
「どうするのよこれ――!!」
空しく牧野の怒鳴り声が車内に木霊した。


一番欲しかったもの愛情だったり家族の温もりだったりしたが、俺は選択を間違っちゃいねぇよな牧野?









さくら さくら様からいただいた、本編から4年後のSSです(嬉)
こんな二人が「らしく」ていい!! まさに垂涎もののSSでした。
さくら さくら様、ありがとうございます・・・!!タイトルがいいんですよね。
わがままな君が陥落するのはいつのことか・・・なんだかんだいって
つくしって司のペースに巻き込まれてゴールインしそうですね(笑)




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