キス
〜もうひとつの形〜
彼女のことを見ていると何となく、そばに寄ってキスをしたくなった。
縮まる距離とは裏腹に、彼女が緊張で固くなっていくのが伝わってくる。
初めてのキスじゃないのに、と俺は苦笑しながら彼女の肩を抱き寄せた。
「・・・花沢類?」
俺の行動を疑問に思った彼女の声と上目遣いの視線が、俺の意地悪な気持ちに火を点けた。
背中に腕を回して彼女が身動きを取れないようにする。
耳元である言葉を囁くと、彼女が「えっ!」と言って慌て始めた。
俺の胸を押して顔を上げた彼女は、真っ赤になって抗議をしようとしたけれど・・・・・・
「だめ。」
俺はにっこり笑って一言言うと、これ以上何も言えないように彼女の唇を塞いでしまった。
「・・・んっ」
隙間からこぼれる吐息は、やがて甘さを含んだものになって。
彼女の声をもっと聞きたくて、俺は優しい雨のようにキスを降らせる。
最初は戸惑い緊張していた彼女が、やがて降参したようにゆっくりと身体を預けた。
――――つかまえた。
壊れ物を扱うように優しくベットに横たえる。
俺はキスを繰り返しながら、2人だけの世界へと彼女を誘った。
お互いの存在を確かめ合うように、触れ合った場所から気持ちがあふれそうで。
言葉の代わりにこぼれ落ちる幸せな吐息が、2人の世界を満たしていく。
――――あなたがいれば、何もいらない。
胸を満たす幸福感と、切なさが入り混じった複雑な気持ちを抱いて、瞳からこぼれる彼女の涙を唇で掬う。
しっかりつかまえていないと消えてしまいそうで、その存在を確かめるようにまたキスを繰り返した。
彼女は俺だけのもの。
この強い瞳も、意地っ張りなことを言う唇も、白い肌も。
誰よりも深く、誰よりも純粋に、ただ考えるのは彼女のことだけ。
いつも笑っていて欲しい。そばにいて欲しい。
自分の中にこんな独占欲があったなんて気が付かなかった。
「・・・愛してる。」
誰にも縛られず自由な生き方を選ぶ彼女にとって、俺の願いはわがままなことだと思うけれど―――。
「・・・あたしも・・・。」
そう言って目を細めて笑う彼女に、俺はまた恋に落ちてしまった。
そして再び繰り返される2人だけの儀式。
キスから始まるそれは、飽きることなく何度も俺の心に火を点ける。
夢のような現実の中で、唯一リアルなのは俺の気持ちと腕の中にいる彼女の存在。
昨日より今日、今日より明日幸せになるために。
俺達を確かに繋ぐ、始まりはいつも彼女との甘いキスから。
fin.
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