〜『竹馬の友』の始まり〜
気が付けばいつも一緒にいた。
自分をうまくコントロール出来なくて、突然吐いてしまったりなど、 酷く内向的だった俺を、少しずつ外に連れ出してくれたのは紛れもなく彼女だ。 5人で遊ぶ時にはいつも俺のそばにいてくれた。
そんな静に俺はいつのまにか特別な気持ちを抱くようになったけれど・・・。
まだ幼い俺達の、恋心さえ自覚していなかった頃の話。
***
「おい、これからかくれんぼしようぜっ!」 当時、5人の中で一番背が低かった司が突然口を開いた。
総二郎が嫌そうに眉を寄せる。その表情に怒りを瞳に浮かべた司が、ゲンコツを作るとぽかっと総二郎を叩いた。 「おもちゃで遊ぶのにあきたんだよっ。うちは広いし。・・・そうだ。 「「えーっ!!」」 総二郎とあきらが同時に不満そうな声をあげると、3人の様子を見ていた静が笑いながら 「・・・ただし、最後まで発見されなかった人は、オニが一つだけその人の言うことを聞くっていうのはどうかしら?」 面白くない顔をしていた二人がパッと顔を明るくさせると、「それなら・・・」と司の方を見る。
「じゃ、もちろん、おれが『オニ』な。」 ニヤリと小悪魔のような笑顔をすると、司は「さあ、どこにでもかくれろ!」と俺達をテラスから追い立てた。 「ちゃんと100まで数えろよ〜。」 捨て台詞を残して足早に駆けて行く総二郎とあきらに、司は「うるさいっ!」と顔を赤くして叫ぶとゆっくり数え始めた。
二人なら怖くないから、とにっこり笑いかける静に、俺はコクリと頷くと手を引かれてテラスを出た。
隠れ場所を探すため、しばらく廊下を歩いているとドアが少しだけ開いている部屋があった。 大きなレースのついたかわいらしい部屋。大きなぬいぐるみがたくさんある。 静も同じことを考えていたらしい。さすがの司もねーちゃんの部屋には遠慮して探しに来ないだろう。 「・・・もーいーかい」 遠くで司の声が聞こえる。 「まーだだよっ!」 大声で答えると、静はしーっと唇に人差し指を当ててクローゼットの中に入り込んだ。 部屋の前をパタパタと走る音が近づき、やがて遠ざかっていく。
静が面白そうにふふっと笑っていた。 お互いの息遣いだけが聞こえる中で俺は少しずつ眠くなってしまい、静の肩にもたれかかった。
―――目覚めたのは、なかなか出てこない俺達を心配して司達と一緒に探していた椿ねーちゃんの声だった。 「・・・きゃあっ!・・・あんたたちこんなところにいたの・・・」 自分の部屋のクローゼットを開けたら、子供二人が肩を寄せ合って寝ているなんて誰だって驚くだろう。 ゲーム中に、わざわざ自分から見つかるわけにもいかず、かといって俺を一人にするわけにもいかず、
「・・・司だからよ。絶対よ?」
・・・ま、どうでもいいけど。
彼女の微笑みの意味は、次の日の朝に何となくわかった気がした。 「・・・お、はよ。」
しばらく毎朝司の送り迎えが続いたが、俺の心の病気が一時より治まりを見せた頃には、
***
「・・・へぇ。そんなことがあったんだぁ。」
英徳学園の非常階段。雲一つないお天気の昼下がり。
「まあね。・・・その後かな。司が少しずつ荒れ出したの。」 「・・・そっか。じゃぁ、結構長い間だったんだね。あいつが迎えに来てたの。」 「ああ、後で静に聞いたら、司は俺にどう接したらいいのかわからないって、よく椿ねーちゃんに漏らしてたんだってさ。 牧野ははぁーっとため息を吐くと、両手で抱えた膝頭にあごをちょこんと乗せてつぶやくように言った。 「椿お姉さんもすごい人だけど、静さんもすごいなぁ・・・。やっぱり憧れるなぁ、あたし。」
彼女の全く素直な感想に、俺はプッと吹き出すとにっこり笑った。 「・・・牧野ならそのままでも大丈夫さ。何せ、英徳学園一の猛獣使いだからね。」 「ありがとう・・・なんて、花沢類てば、ひどい。」
牧野は傷付いたように言うと、複雑な表情で俺をちょっと睨んだ。
俺達を少しだけ大人にしてくれた幼馴染の彼女は、同じ空の向こう側で今日も忙しい毎日を送っているに違いない。 いつのまにか5人で遊ぶこともなくなって、今は別々の道を歩み始めている。
初恋は結局叶わなかったが、今でも彼女は俺にとって特別な存在だ。
「・・・静さん、きっと元気でがんばっていると思う。とびきり素敵な靴、履いて。」 「・・・ん。」
そう言うと、牧野は俺ににこっと笑ってゆっくり空を見上げた。
「・・・道明寺も元気かなぁ。」
小さな声でつぶやいた牧野の言葉に、俺は返事をするかわりに腕を伸ばすと彼女の頭を優しく撫でた。 fin. |
自分が作ったくせに難しいこのお題。苦し紛れになっちゃいましたが。静さん登場です。 |