嫉妬
〜始まりと終わりのない情熱〜





 





 

この気持ちを何と呼べばいいのだろう?

この俺様に啖呵を切った女が類と話をしているのを見ると、急にイライラしてきた。
信じていたものに裏切られたような、そんなショックに似た気持ち。

俺には決して見せない笑顔を、類の前だけでは惜しげもなく見せるあいつ。
どうやら、以前から非常階段で何度か会っているらしい。

 

・・・英徳学園では泣く子も黙るこの俺に、どうしてあの女は怖がりもせず楯突いて来るのか。
生徒はもちろん、先公だって恐れて何も言わないのに。

 

後ろ盾があるわけでもない。

おまけにボンビーだし。

 

『だったらほっとけば』なんて総二郎達は言うけれど、このままじゃ俺のメンチョにかかわるんだよ。

 

・・・あ、メンツか。

 

コホン。それはさておき・・・だ。

俺のこのモヤモヤを解決するためにも、あの牧野つくしって奴に一度、後悔させてやらねぇと。

道明寺司をコケにしたことを思い知らせてやる。













***

 

 

 

 

 

ドアを開けると、少し湿った風が頬を撫でた。
太陽はすっかり傾いて、赤い名残を空に残して沈もうとしている。

非常階段には誰もいない。

 

どうにもできない苛立ちを認めたくなくて、思い切り暴れまくった後に残されたのは、
壊れたガラスと、自分をコケにしたあの女への憎しみ。

 

ふと移した視線の先にあるのは、多分、あの女が残した忘れ物。

 

 

―――牧野つくしはここに来る。

 

 

保証はないのに、なぜがそんな気がしてならなかった。

 

 

 

非常階段に向かって近づいてくる足音。
ドアが放たれた瞬間、俺はあいつに向かってニヤリと笑うのを止められなかった。

 

―――一番残酷な方法で、牧野を追い詰めてやる。

 

逃げたあいつを捕まえて、無理やりキスして服従させようと思った。
力いっぱい抵抗したが男の力にかなうはずがない。

 

 

「・・・やめて、道明寺。」

 

 

俺の名前を呼んだ彼女の声にふと我に返ると、あの気の強い牧野が泣いていた。

 

 


その時、俺はやっと気が付いたのだった。

心を支配する、このイライラした気持ちを何と呼ぶのかってことに。

 

 

 

彼女の涙を見た途端、心に巣食っていた黒い気持ちは萎んで消え、
その代わりに
小さな子供のように静かに声を押さえて泣く牧野が愛しく思えてきた。

 

「・・・もうしないから、泣くな・・・」

 

とにかく泣き止むまで、あいつの頭を小さい子供にするそれのようにずっと撫で続けた。

どれくらい時間が経ったのだろう。
泣き止んだ牧野は、目を腫らしたまま何も言わず立ち上がるとそのまま帰っていった。

忘れ物を残したまま。

 

 

 

 

 

―――そしてやっぱり素直になれない俺は、このあとも牧野と喧嘩をする。

何とか彼女の気を引きたくて友人を巻き込んだとしても、俺はどうしても『牧野つくし』が欲しかった。

 

一番欲しくて、手に入れられないもの。

 

日に日に大きくなる、彼女を手に入れられない苛立ちと焦り。
数々の妨害と何かと忙しい彼女に振りまわされて、牧野の本当の気持ちを知るのは、まだかなり未来の話。

 

 

『恋は盲目』?いいじゃねぇか。

ハッピーエンドに必要なのは、誰よりも強いパッション(情熱)だと思うけどね

 

・・・その思い込みが、実は随分回り道をさせていたのだと俺自身気付いたのは、
彼女に永遠の愛を誓った遠距離恋愛4年目の、最後の日だったり。

 

 

 

 

fin.





 


懐かしい場面も入れつつ、司の視点で書いたSSでした。過去と現在と未来が混在してますが、
お分かり頂けたでしょうか?司が大人になった話とも言えるかな?(2004/04/25)


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