100万円
〜つくしの場合〜
学校からの帰り道。
つくしはいつもの道を歩いていると、道の真ん中に無造作に捨てて?ある、黒い鞄を1つ発見した。
「なんだろ?落し物かな・・・」
外側には手がかりは何もない。鞄のファスナーを開けて中を見ると、そこには札束が1つだけ入っていた。
「・・・な、何これ。」
思わずきょろきょろと周りを確かめて、その札束に恐る恐る触れる。
真ん中には白い帯がついている。
金額は正確にはわからないが、テレビのクイズ番組の賞金で見たことがある程度の厚さがあった。
・・・ということは。たぶんこれは・・・
―――ひゃくまんえん!?
つくしの頭の中にゼロが並ぶ。思わず鞄を握る手に力がこもってしまう。
―――とりあえず、警察に届けなきゃ。
再び思い直してファスナーを閉めた瞬間、「あれ?ねーちゃん、何してんの?」という声と共に、後ろから進が表れた。
「あ、あんた、びっくりするじゃない。いきなり声かけないでよ!」
「・・・何で怒ってんの?」
『いいから、先帰ってて』とつくしは叫ぶと、交番まで走って行った。
100万円を持って表れたつくしに驚いた警官はいろいろ聞いてきたが、ようやく解放されたつくしはホッとした気持ちで家に帰った。
ドアを開けると、先に帰っていた進が困ったような顔をしてつくしの元へ駆け寄ってきた。
「ね、ねーちゃん、これ・・・ポストに入ってたんだけど・・・」
進がつくしに差し出した封筒には、『牧野様』と印刷された字で書かれてあった。
「・・・さっき中身を見たらさ・・・」
進が心なしか震える手でつくしを促す。
怪訝な顔で中身を見ると、そこにはさっき拾ったお金と同じ厚さだと思われる札束と白い便箋が一枚入っていた。
『親愛なる、牧野つくし様
こちらはあなた様へのプレゼントです。お金でお困りでしたらお使い下さい。
もしご入用でなかったら、残念ですが交番に届けて下されば幸いです。』
「・・・何これ。」
「・・・ねーちゃん、心当たりある?ひょっとして、道明寺さん?」
新しいアルバイトだって高校生はなかなか雇ってくれないご時世だ。
それにつくしの家庭の事情からいって、お金に困ってることを知っている人がこんなことをしたに違いない。
・・・道明寺?十分考えられなくもないけれど、あいつはあたしが嫌がることはしないだろうし・・・。
それに、こんなに手の込んだことをする男だと思えない・・・。
じゃあ、一体誰なんだろう?
つくしがあれやこれやと思い巡らせていると、チャイムが鳴った。
進が出ると、そこには宅配便のお兄さんが荷物を持って立っていた。
「牧野つくしさんに、お届け物でーす。」
つくしが受けとったのは英和辞典サイズの小包みだった。
もしや・・・と思って開けてみると・・・・、そこには100万円の札束と思われるものが2つと、さっきと同じ内容の白い便箋が入っていた。
つくしは力が抜けたのか、畳にぺたんと座り込む。
進はぽかんとしばらく札束を見つめていたが、やがておそるおそる100万円を手に取りぽつりと言った。
「・・・ねーちゃん。これは神様がくれた贈り物だよ。きっと。
ほら、うちってずっと不幸続きだったじゃん。きっと気の毒に思った神様が送ってくれたんだって。」
「・・・でも、こんな正体不明のお金使えないわよ。第一もし使っちゃったとして、あとで返せって言われたらどうすんの?」
『いーじゃない、使えば。折角もらったんだし。』
「ママ、パパまで!いつの間に来てたのよっ!!」
ぎょっとしてつくし達が振り返ると、目を輝かせながら両親が立っていた。
「でも、さすが道明寺様。娘に負担をかけないように、匿名で100万円を下さるなんて。」
パパが100万円を手に取る。
「道明寺なわけないでしょ」
「そうよね〜、さすがあたし達の娘!! これでしばらく生活に困らないで済むわ〜。」
にっこり笑顔で言うと、ママも100万円を手に取り2人でステップを踏み始めた。いつの間にか、進まで一緒に踊り始めている。
つくしは慌てて立ち上がると、100万円を取り戻すために3人を止めようとした。
「何で踊ってんの?ねぇ、ちょっと!! パパ、ママ、進〜!! 話を聞けーっ!!」
「・・・・・牧野っ、牧野っ!」
「・・・ん・・・?」
「ん、じゃねーよっ。お前なぁ、こんなところで寝るなよ。一応女だろ?」
司が呆れ顔でつくしを見つめている。
つくしははっとすると、がばっと身体を起こした。
「返してっ!!」
「・・・はぁ? お前、どんな夢見てたんだ?」
「・・・ゆめ?・・・あれ?あたし家にいるんじゃ・・・」
つくしの言葉に、ますます司が怪訝な顔をする。
はーっと大きな溜息を吐くと、つくしの鼻先を人差し指で弾いた。
「あいたっ。何すんのよっ」
「まだ寝ぼけてるみてーだからな。・・・ったく、非常階段なんかで寝やがって。
類が来てなかったからまだしも、足を立てて寝るやつがあるかっ!!」
司は赤い顔で怒鳴ると、ふんっとそっぽを向いた。
つくしははっとすると、ぼそりと小さな声でつぶやく。
「・・・スケベ。」
つくしの言葉にカチーンとした司が再び怒鳴った。
「・・・だ、誰がお前のパンツなんて見るかっ!! 金積まれたって見ねーよっ!!」
「誰があんたに見せるかっ!! 100万積まれたって嫌だねっ!!」
・・・実際は、目の前に100万円が積まれたら両親は躊躇することなく、娘を差し出そうとするに違いない。
さっき見た夢が思い出されて、つくしはハーッと深い溜息を吐いた。
fin.
|