ピンチ
〜彼女の眠る間に〜

 

 

 

 

 

ここは、私立英徳学園。資産家の子息、令嬢が通う幼稚部から大学までエスカレーター式の学校である。

そんな英徳学園の高等部にある、非常階段で眠る女の子一人。

彼女の名前は「牧野つくし」と言った。

 

ある出来事から学校中のイジメの標的にされ戦ってきた彼女にとって、非常階段は憩いの場であった。

疲れきった彼女が唯一落ち着ける場所。

暖かな日差しの中で優しい風に吹かれているうちに、彼女はとうとう眠ってしまった。

 

 

そして、そこに現れた男が一人。

「今日も、あの女をぎゃふん(死語)と言わせてやるぜ。」


誓うように青空を見上げた彼は、世界でも有数の財閥の子息の一人、道明寺司であった。

ふと振り向くと、彼は寝ている彼女に気がついた。

それは紛れもなく「あの女」。

表情は髪に隠れてわからなかったが、一目見てすぐに誰かわかった。



(・・・こんなところで寝やがって・・・本当にこいつ女か?)




起こさないように近づいてみる。

(よだれでも垂れてたら、みんなに言ってやろう。)

発想は相変わらず小学生並である。

 


「・・・うーん。」


 

彼に気がついたのか、寝返りを打つ彼女。

その無防備な寝顔に、一瞬、彼は目が釘付けになってしまった。

 


白い肌に、うっすらと唇にひいてあるピンクのリップ。

 



――こいつ、かわいい・・・・・。

 

 

彼女の唇まであと数センチ。

瞬間、自分が彼女にキスしようとしていたことにはっと気が付いた彼は、
真っ赤になりながらやっぱり音を立てないようにあとずさりして、彼女のそばから離れた。

さっきの彼女の表情と、かわいいと思ってしまった自分を忘れるように、ブンブンと頭を振る。



(・・・いや、俺がまさかな・・・)

 

そのまま彼は逃げるように、彼女の眠る場所から去っていった。

 

 

 

 

 

そして、また男が一人、非常階段に現れた。

眠さで不機嫌を絵に描いたような彼、花沢類は、いつもの彼の指定席で寝る彼女に気が付いた。

 

(・・・何、この女・・・。)



よく見ると、いつも親友がいじめている彼女。

彼女の好意を少なからず感じ取ってい彼は、眠る彼女をじっと見つめると、
彼女の口にかかった髪が気になって、そっと払う。




(・・・何で司がこの女に執着するのかが、何となくわからないでもないけど。)




はっきりしない頭でぼんやりそう思ったが、元からあまり他人に興味がない彼は、
そのまま誰にも邪魔されない、自分の眠る場所を探すために去っていった。





 


その後、3人の関係が交錯するなんて、一体誰が思っただろう。

それぞれの想いは、彼女の眠る間に。

 

 

 


fin.

 






 


本編の番外編っぽく。やっぱり難しい。つくしが眠っている間に道明寺とニアミス・・・ということで「ピンチ」を選びました(泣)。
ある意味ピンチですよね?(汗)パラレルはどちらかというと苦手なので、現実的に・・・。視点を外側からにして書くのも
たまにはいいかなと思いまして。(2005/05/01)


*Back