友情?そんなもの、信じない。

私が信じるのは、自分だけ。

誰も信用なんて出来ない。特に女は。

・・・理由?そんなの決まってるじゃない。



女は平気な顔で嘘を吐くから。




でも、ちょっとだけ、信じてみてもいいんじゃないかって思った。


あの人に出会ってから―――――。
















女の友情
〜桜子の場合〜















「あ、美作さん。牧野先輩見ませんでしたか?」

「牧野?いや、今日は一度も見てねぇけど。」


英徳学園の渡り廊下で桜子がばったりと出会ったF4の一人、美作あきらが言った。


「・・・困りましたね。今日、伝えたいことがあったのに。」


携帯にかけたらストップしてるみたいなんですよ、と桜子はため息を吐いた。


「・・・牧野なら滞納もありえそうだな。もし会ったら伝えておいてやるけど?」


あきらが苦笑して、助け舟を出す。


「じゃあ、今日7時にアークサイドビルの前でって伝えておいてもらえますか?私はまた先輩探しますし。」

「わかった。・・・それにしても、お前等そんなに仲良かったっけ?」


不思議そうに聞くあきらに、桜子は当然!という顔をして答えた。


「今更、何言ってるんですか?私達、こう見えて結構仲いいんですよ。
今日だって、滋さんや優紀さんと一緒にご飯食べに行くんですから。」


あきらは桜子の言葉に、もし聞いていたら複雑な思いで眉根を寄せるであろうつくしを思い浮かべながら、
納得したふりをした。


「・・・ふーん。ま、そういうことにしておくわ。」

「あ、信じてませんね〜?」


適当な返事をされ面白くない顔をした桜子に、あきらが嘘だよと苦笑しながら「それにしても・・・」と続ける。


「・・・お前、変わったよなぁ・・・。」

「そうですか?・・・私は何も変わってませんけど?」

「いや、変わったよ。なんかさ、丸くなった感じ。」

「・・・まさか、太りました?滋さんのお茶にいつも付き合ってるから!?」


思い当たるところはあるらしい。
「丸くなった」という言葉に、少し青ざめながら敏感に反応する桜子の様子に、あきらはぽかんとするとお腹を抱えて笑い出した。


「いや、違う違う。性格の方だよ。『丸くなった』って。」


何だ、と桜子は心からほっとすると安心したのか、言葉を続けた。


「だって滋さん、すごいんですよ?お茶するのはいいんですけど、毎回毎回、ケーキ5個とか平気で食べるんですよ?
一緒に出かけると、必ず喫茶店に3軒以上は行きますもん。そのたびに、やっぱりオーダーするじゃないですか。
・・・それに滋さんが食べるの見てると胸焼けして、私、水分太りしそうなくらいお茶飲んじゃうんで・・・」

「・・・お前でも意外とあの滋に苦労してるんだな。」


しみじみと言うあきらに、「わかってくれます?」と桜子も苦笑した。


「・・・美作さんや西門さんの苦労が今ならわかりますよ。だって滋さんって、あの我儘なところとか人の話を聞かないところなんて、
道明寺さんを女にしたみたいですからね〜」


桜子の発言にあきらはうんうんと首を振って、『ある意味、2人とも猛獣だからな』とこぼす。



『・・・でも何か、ほっとけないんだよなぁ。』
『・・・でも何か、ほっとけないんですよね』



思わず同時に言ってしまった二人は、しばらくの沈黙の後、顔を見合わせて笑った。


「・・・その猛獣達を手なづけた牧野先輩はやっぱりすごいですよ。」

「・・・そうだな。さすがの俺達も、司があそこまで変わるとは思ってなかったけど。」


あきらはNYへ旅立った司のことを思い浮かべた。

友達は多分、俺達だけ。考えるのは学園でのいじめのことばかり。
年齢相応に、女のこととかファッションとか、もっと考えてもいいはずなのに・・・・変な奴。

と、口に出してたら殴られそうなことばかり思ってたけれど、牧野つくしの出現で司は変わった。
幼馴染のあきら達が驚くほどに。
そして、司だけではない。牧野はF3をも巻き込み、影響を及ぼしたのだ。

あきらはふっと笑うと桜子を見た。



「・・・桜子も変わったな。昔は同性にもっときつくなかったっけ?ほら、あの・・・司に迫った海って子にも・・・」


桜子は『ああ』と言うと、思い出したように不機嫌そうに答える。


「私は今だって嫌いですよ。女なんて。みんなブスだし、うるさいし、集団でないと何も出来ないし・・・」


桜子の相変わらずきつい言葉に、『やっぱ、前言撤回…』とあきらは心の中で思った。
そんなあきらの心は他所に、桜子は言葉を続ける。


「・・・でも、牧野先輩には助けてもらったから。だから、私はこの人を信じようって思ったんです。
先輩が信じてることも、人も。」


「・・・そっか。」


「あ、牧野先輩!」


突然、遠くにつくしを発見したのか声をあげる嬉しそうな桜子に、あきらは『じゃあ、猛獣使いによろしく』と手を振った。
桜子は「ありがとう」と礼をすると、「さっきの話の続きですけど・・・」と言う。


「え?」

「・・・だから、美作さんも信じてますよ?」



にっこり笑いながらそう言ってつくしの所へ駆け出していった桜子に、年上キラーのあきらは思いもがけず『かわいい』と思ってしまったのだった。


















今日の待ち合わせについて話し合いながら桜子と歩くつくしが、ふと口にする。


「そういえば、さっき一緒にいた男の人、美作さん?」

「ええ、ちょっとお話してたんです。」

「へえ?何について?」


美作さんと桜子ってどんな話をするんだろう?と興味深々で聞くつくしに、桜子は笑いながら答えた。


「・・・『調教が難しい猛獣を、どうやれば手なづけられるのか』についてなんですけど。」


猛獣・・・?と、つくしが嫌な予感に複雑な表情をする。


「・・・で?結論は?」

「『牧野先輩しか無理』ということで意見は一致しました。」

「・・・・やっぱり。・・・・桜子、あんたねぇ〜〜」


ひくひくと引きつるつくしの姿に、桜子は大笑いするとつくしの肩をポンと叩く。


「まあまあ、先輩が困った時は私が助けてあげますから。・・・大丈夫ですよ。」


そう言って照れたように背中を見せて先を行く桜子に、つくしは本当に『大丈夫なのかなぁ』とため息を漏らすと、
小走りに彼女を追いかけて、背中をバンと叩く。


「あいたっ!私、先輩と違ってかよわいんですから、もうちょっと手加減してくださいよ。」


見た目は美少女なのに相変わらずかわいくない桜子の発言に、つくしが苦笑しながら返した。


「猛獣使いの友達だったら、強くなきゃね。・・・でも、桜子ならそのままでも十分大丈夫だと思うけど?」





つくしの言葉に『もう!』と文句を言う桜子の顔はそれでも少し嬉しそうに見えた。












fin.











最初は嫌われキャラだった桜子ですが、最後はそれ以上のキャラの登場(海)によって、好感度UPしましたねぇ。
性格は決して○とは言えないけれどどこか憎めない、正統派のつくしと対照的で話を面白くしてくれる女の子だと思います。(2004/03/24)


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