あたしと彼の指定席。 待ち合わせをしてるわけじゃないのに、いつもと同じ時間に自然と足が向く。 「ひょっとしたら、今日はいないかもしれない。」 「会えたら、どんな話をしよう?」 英徳で唯一、あたしの心からくつろげる場所。
つくしが勢いよくドアを開けると、壁にもたれている類が眠そうに目をこする。
「西門さんや美作さんとは?最近見ないけど。」 「ん、知らないけど。多分女と遊んでるんじゃないの?相変わらず。」
「・・・司がいなくて、寂しい?」 類の思いがけない言葉に、つくしは図星だったのか赤くなって否定した。 「ぜ、ぜんっっぜん!平穏無事過ぎて、むしろつまんないくらいだわ。 「俺?俺は司がいてもいなくても、変わらないよ。 つくしは少ししんみりとなると、足を投げ出して司がいるNYへと続いている空を見上げた。 「今頃、道明寺、何やっているんだろ・・・。」 ぼそりとつぶやくつくしに、類が思い出したように声を上げた。 「・・・あ、そういえば。」 「何?」 「司にずっと口止めされて、牧野にずっと内緒にしてたことあるんだけど・・・。聞きたい?」 つくしは怪訝な顔で類を見ると、「ろくなことじゃないだろうけど・・・まあ、一応。」と言った。 「多分、牧野は知る権利あるはずだよ。」 そう言って類はつくしのそばに体を近づけると、小声で口止めされていた話を告白する。 「・・・1つ目は・・・司が記憶喪失の時、牧野が持ってたぬいぐるみあっただろ?」 「あ、うん。あのうさぎのやつね」 つくしの頭の中に、同時に楓の顔が浮かんだ。 「司がね、あれ、NYに持っていったんだ。・・・これは偶然、俺が見たことなんだけど・・・ 「・・・へぇ・・・あいつもそんなところあるんだ・・・よかった。」 類はさもおかしそうに、くすくすと思い出し笑いをしていた。 「1つ目ってことは、まだあるよね。何?」 「もう1つは、ほら、司のうちにいるネコみたいな名前のおばあさんから聞いたことなんだけど・・・」 「・・・タマさんね。」 「うん、そう。『つくしに話してやりな』って。 「え?」 一瞬、何のことを言われているのか理解できなくて、つくしは目が点になった。 「あの『鉄の女』に、とうとう2人の仲を認めさせたってことだよ。」 「・・・ホントに?」 つくしは信じられないといったように、類をじっと見つめている。 「よかったな。」 類はにこっと笑うと、つくしの頭を大きな手で優しく撫でた。 「・・・〜〜〜っ。ごめん。泣きたいわけじゃないんだけど・・・」 「うん。」 「でも、・・・止まらないよ・・・」 ぽろぽろとこぼれる涙を拭うつくしの頭を、類は優しく撫で続けた。
ぼそりと類はつぶやくと、つくしを撫でる手の動きを止める。 「・・・でも、いいんだ。これであいつとの見えないつながりに、ちょっと自信持てたから。」 「そうそう、それでこそ牧野つくしだな。・・・んで、4年後までにこの辺も成長しなきゃね。」 類はニヤリと笑うと、つくしの胸のあたりをポンポンと叩く。 「・・・〜〜花沢類って、そんなキャラだったっけ?」 先ほどの涙はどこへやら、つくしは警戒したように類を見ている。 「え?何をいまさら。・・・気付かなかった?」 しらっとそう言う類の様子に、つくしは『信じられない』と少し呆れながら、スカートに付いた埃を払い落とすと笑って立ち上がった。 NYに続く空にはぽっかりと白い雲が1つ浮かんでいる。 これから何度も非常階段に来るだろう。そしてそこにはいつも、花沢類がいるに違いない。
穏やかな瞳でつくしを見つめる類に、つくしは近付くと頬に軽く触れるようなキスをした。 「・・・ただ何となく、感謝を表したかっただけ!じゃあね!!」 「・・・だから、あいつといると飽きないんだよね。」 つくしが触れた頬を撫でながら、そうつぶやくと類は空を見上げた。 「・・・どうなるかわからない・・・か。」 温かい日差しに、類は壁にもたれるとやがてうとうととなり始めた。優しい風が頬を撫でる。 fin. |
非常階段編、完結〜。ゆっくりと日をかけて書きました(時間がなかったので)。私がこういう話を書くと、中途半端な甘い?話になります。 しかし、やっぱりここでつくしと類が進展しないのは、私がつくし×司派だからでしょうか。原作では、連載当初はつくし×類になるはずだったん ですよね・・・。ぼんやりしているくせに、その存在はぴりっと結構辛口な花沢類。花男に欠かせないキャラだと思います。(2004/03/11) |